ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)
ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)

 そんなウォーリーさんが原案と演出を担当し、昨年VR演劇として製作された舞台が、有観客の演劇版として上演される。舞台「僕はまだ死んでない」は、脳卒中で倒れ「意識はあるのに会話ができなくなった」主人公と、それを取り巻く人たちの物語だ。

「映画やドラマは、監督や演出家がカット割りを考えて、見せたいものを見せていくけれど、演劇の場合は、観客一人一人がディレクターになれるわけで、自分でカメラワークを決められる。だから、お客さんは、見たいものを見ればいいんです。もっといえば、妄想や勘違いで、そこにないものを感じ取ったりもできる。作り手の狙っていることと全く関係ない、想像以上のところで楽しむこともできる。そうやって、お客さんが好き勝手に楽しめる作品を作りたいと、僕は常々思っています」

 お客さんの体験度を上げるためには、演者もまた勝手にやっているように見えることが大切だとウォーリーさんは言う。「実際はコツコツと積み上げられたものであっても、その場で自由にやっているように見えるような。舞台では、そういうセッション感というか、共鳴したり、共振したりする空気を作っていきたいですね。舞台はお客さんと一緒に作るものだから、お客さんが劇場に足を運んでからのことは、“観劇”じゃなくて、それぞれの“体験”であってほしいんです」

(菊地陽子 構成/長沢明)

ウォーリー木下(うぉーりー・きのした)/1971年生まれ。東京都出身。大学在学中に劇団☆世界一団(現sunday)を結成。ノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースにおいてエディンバラ演劇祭で五つ星を獲得。2018年から「神戸アートビレッジセンター(KAVC)」舞台芸術プログラム・ディレクター。ノンバーバル、ストレートプレイ、ミュージカル、2.5次元舞台など幅広く演出。

週刊朝日  2022年2月18日号より抜粋