在りし日の中村吉右衛門さん(2017年7月)
在りし日の中村吉右衛門さん(2017年7月)

 歌舞伎俳優で人間国宝の中村吉右衛門(なかむら・きちえもん、本名波野辰次郎<なみの・たつじろう>)さんが11月28日、死去した。77歳だった。故人をしのび、歌舞伎座のこけら落とし公演(2013年)に出演する際の週刊朝日のインタビューを再掲する。

【写真】「何てこと言うの」と怒られた?四女の結婚

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 歌舞伎座のこけら落とし公演(4月2日~)に看板役者として出演するのが人間国宝の中村吉右衛門さん(68)だ。3カ月で8役演じ、「命がけ」と意気込む。中村勘三郎さん、市川團十郎さんの逝去で悲嘆にくれた歌舞伎界を重鎮として牽引する。これからの歌舞伎はどうなるのか。思いのたけを本誌に語り尽くした。

 《歌舞伎座の開場に先がけ、歌舞伎界で明るい話題となったのが、2月に挙式した中村吉右衛門さんの四女瓔子(ようこ)さん(30)と尾上菊之助さん(35)の結婚だ。日本記者クラブでの歌舞伎座の新開場に関する会見(3月18日)でも吉右衛門さんは「花嫁の父でございます」と挨拶した。
 菊之助さんの父・菊五郎さん(70)も人間国宝。播磨屋(吉右衛門の屋号)と音羽屋の“梨園の名門”同士の縁組としても注目される。まず、花嫁の父としての心境を聞いた。》

 以前は「歌舞伎役者に嫁がせると蔵を潰す」と言われていたものです。それだけ歌舞伎役者は(金が)かかる商売なのでしょう。でも、こちらはただ舞台だけ、平凡な日常生活を送っております。いまはこの世界の方々も大方は普通の常識的なご家庭と同じです。

 何より、当人たちが幸せになってくれればいいというのがわれわれの心境です。僕が菊五郎さんと結婚するのではないわけで(笑)。

 実は二人がつきあっていることも知らなかったのです。ある日、菊之助くんが「お願いがある」と。歌舞伎役者がお願いと言うのは大概、「役を教えてください」という意味です。娘も一緒というので変だなとは思ったのですが。菊之助くんとは私的に親しいわけではなかったので、「娘さんを頂戴いたしたい」と言われ、「えぇ!?」。驚きました。

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娘に「なんていうことを言うの!」と怒られた