東儀秀樹さん (撮影/小原雄輝)
東儀秀樹さん (撮影/小原雄輝)

「12月に、僕とN響メンバーによる弦楽アンサンブルでコンサートを開催するのですが、『雅楽器とN響で一体何を演奏するの?』などと、訝しく思う人はまだ多いかもしれない。でも、僕が考える音楽というのは、邦楽器も洋楽器も、ロックもジャズもクラシックも関係なく、純粋に音を楽しむことができるものです。僕は、音楽学校で音楽を勉強したわけでもなく、ずっと自分のカンを頼りに、ピアノやギターをマスターしてきました。呼吸さえ合わせれば、いろんなジャンルの楽器と曲を楽しめて、コミュニケーションをはかれるのが音楽。ロックバンドやフルオーケストラと組んでやることも、すべてが僕の表現の一部です。今回は比較的、皆さんのよく知っている音楽を、皆さんのあまり知らないコラボレーションで届けるので、無条件で楽しんでいただけると思います」

 東儀さんの頭の中では、常にピンチはチャンス。雅楽に対する先入観も、アンチの偏見も、音楽を介せば、あるいは、直接目を見て話しさえすれば、お互いの理解は深まり、気持ちは好転するはずだという逆転の発想がある。

「緊急事態宣言中は、コンサートが中止にならないときのことをイメージしていました。『わざわざ来てよかった!』と心から喜んでいるお客さんの顔だけを想像していた。必ず最善の方法がある。僕ならそれを見つけられる、と。もともと、楽しいことに目がいく習性なので、悪いことがあってもそこで立ち止まらない。大声出して泣き叫んで時間が戻るなら叫ぶけれど、時間は戻すことができないじゃないですか」

 自分が生き生きと輝く瞬間のことだけをイメージする。それは、過去に何度か死にそうな目に遭ったときに得た教訓だ。

「以前、車を運転している最中に、居眠りしたトラックに突っ込まれたことがあるんです。次の日がコンサートで、ハンドルが胸に刺さったけれど、意識はあった。そのときに『指が動いて、自力で呼吸ができるから、コンサートは大丈夫だ』と。救急車で病院に運ばれたけれど、入院したらコンサートができないから、『病院では眠れないので、自宅で安静にします』と嘘をついて。次の日は、自力でコンサート会場に行って演奏しました。そのとき僕が一番楽しみにしていたのは、当日会場に集まったスタッフの『本当に来たの?』と驚く顔だったんです(笑)」

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