東儀秀樹さん (撮影/小原雄輝)
東儀秀樹さん (撮影/小原雄輝)

 ソロデビューから25年。雅楽師として、時代や文化、ジャンルを超えて、幅広く音楽を楽しむ東儀秀樹さん。敵もアンチもすべていい音楽で包み込みたいと願う心が、ピンチをチャンスに変える。

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前編/東儀秀樹、雅楽は「『別に嫌いじゃない』程度。嫌みな生徒だった」】より続く

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 96年に、アルバム「東儀秀樹」でデビュー。今年でソロデビュー25周年だが、その間、熱心な“アンチ”もいたという。

「音楽は好き嫌いが関わるものだから、すべての人が好きとなったら、それは個性がなくなるということ。アンチというのはいい物差しでもあると思います。デビューして間もない頃は、『あなたのここがなっていない!』みたいな、いやーな手紙を送りつける人がいて、それを読んでは、指摘に対していちいち反撃をして返信していました。でも途中で疲れてきて、アンチの人が好きそうな音楽について、『あの音楽のここが素敵ですよね』と書いたら、今度は、僕が高校のときに読んで、影響を受けた本を送ってくれたんです。『好きな本です、ありがとう』と手紙を書いたら、『今までごめんなさい』と返事がきた(笑)」

 イソップ童話の「北風と太陽」のようなエピソード。以来、東儀さんは、「話し合うことができれば、きっとわかり合える。アンチの人もひっくるめて愛してあげたい!」と思うようになった。

「でも、音楽のアンチ以外に、単に僕のような、1300年続く家系に生まれた雅楽師で、元宮内庁で……みたいな境遇をやっかむ人もいるんです。僕も自信家なところがあるので、『鼻持ちならない人』って思われやすい。それも、『みんな僕のことを羨ましがるけど、僕って才能あるもんね』って、凹まず胸を張っていたら、最後は後ろ指さされなくなりました(笑)」

◆アンチの人も愛してあげたい

 日本人はとくに、自分が知らない世界であればあるほど、勝手な思い込みで、「その組み合わせはどうなの?」「伝統を破壊することにならない?」などと、新しい試みを警戒してしまいがちだ。でも、先入観にとらわれて、出会いの幅を狭めてしまうのはつまらないと、東儀さんは考える。

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