
1週間前には、昔からの知り合いの演出家とプロデューサーとで、新しい仕事の打ち合わせをリモートで行った。
「SDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしたショートムービーを撮るんですが、いろんなことを経験したからこそ、芝居でも、これまでとは違う位置付けのものに出会えるような気がします。老人で、障害者としての自分の表現の歯車が、ようやく回りだしたような。そんな感覚があって、今は次の作品に取り掛かるのが、楽しみで仕方がない」
この取材のために、塩見さんは、話したいことをノートにメモしてきた。びっしりと手書きの文字が書かれたノートを開きながら、「あ、そうだ。“他者とともに”って書いてあるな」と言った。
「私は一人じゃない。みんなに励まされて生きています。病を得てからいろんな人に助けられてきた、それがずっと続いているせいか、今度は自分が人のためになりたい、苦しんでいる誰かを助けられる存在になりたいと思うようになった。あまりにも人に励まされてるから、逆に励ましたいという気持ちが生まれてきている。死ぬまでの間に、そういうふうに生きていければいいかな、と。今は、みんなのことを思いながら、静かに生きていくことが自分には大切なことなんじゃないかという心境ですね。芝居も、映画も、ドラマも。私の中では、自己を顕示する時代は終わったという感じがあります」
穏やかな表情でそう話してから、若い俳優たちにも、エールを送る。
「最近の若い俳優さんって、すごいうまいんだよな。だから、自分がやれることは、俳優としての出入り口に立って、若い人たちに、『どうぞお通りください。今はあなたたちの時代です。みんな生き生きと、ドラマや映画や舞台を作ってくれ。私はフレームの片隅で毅然として立っている』と言いたいですね。そういう老人としての境地に立っている自覚もあります。若い人たちに対して『負けるもんか』じゃなくてね。『あなたたちの時代ですよ』と伝えたいです」