作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「ナンバー」。

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 翔平はここが凄い。チームメイトは異口同音に語る。「ナンバー」(文藝春秋)9月24日号は、前人未踏の新記録達成が目前となった大谷翔平を総特集している。

 巻頭インタビューを読み、驚かされる箇所が幾つもあった。MLB中継も時間の許すかぎりテレビ観戦し、メジャーに詳しい解説者の発言にも目を通し、いっぱしのMLB通になったつもりでいた。甘かった。

 投打二刀流に加えて、彼には走の力がある。足を武器にした盗塁の意味を石田雄太が問う。今年の大谷は長打力を警戒されフォアボールが多い。だが盗塁が増えれば相手投手は脅威を覚える。「フォアボールもツーベースになると思わせれば、ピッチャーも勝負しようと思うかもしれません。だから走るということは大事なんです」

 説得力あるね。「ボール球は振らずにフォアボール、甘い球が来たら長打にする」「フォアボールをヒットと同じだとカウントしていかないと、バッティングがよくない方向へいってしまう可能性が高いので……」

 衝撃を覚えたのは、今年が二刀流のラストチャンスと感じていたという言葉だ。「チームとして、僕が二つをやっていくという方針に対して、見切りというか、そういう感じはありましたからね」。相手と戦うだけでなく、起用法をめぐってチームとも戦っていた大谷。

 二刀流をやりきるためには体調管理が必須だ。今年の大谷は練習量をかなり減らした。「練習って、やりすぎることによってフィジカル的に崩れてきたりすることも(中略)そういう意味で練習量を減らして」みたけど、これも一つのチャレンジという。楽しそうに野球をやっているように見えるが、知力と野球IQの高さが、あの表情の背後にはある。

(この項つづく)

週刊朝日  2021年10月8日号