物語にちりばめられているのは、唯=40歳・シングル・働く女性の、この社会での不自由さ、息のしづらさだ。同時に、ホストとしてノンシャランと生きているようにはたからは見える瀬名にも、唯同様の不自由がある。その不自由さを生み出すもとになっているのは、偏見だ。社会の、そして私たちの。

 40歳で独身、趣味が節約なんて、それで楽しいの? とか。ホストなんて、どうせ客=金としか思ってないんでしょ、とか。けれど、そういう偏見は、自分を安心させるための、ちんけな物差しなのだ、と本書を読むと気付かされる。これが幸せだ、というスタンダードはない。幸せは全てオーダーメイドなのだ。

 本書が巧みなのは、オーダーメイドの幸せで充足していた唯のあり方もまた、一つの過程にすぎない、としているところだ。確かに幸せはオーダーメイドではあるけれど、それは一生一度きりのオーダーではない。状況に応じて、オーダーはその都度変えられるし、変えればいい。いや、変えていけばいいのだ、と。頑なになることなく、その時その時の幸せを、自分の気持ちに正直になって、選んでいけばいいのだ、と。

 唯の同僚で、寿退職が根付く社内で、出産後も仕事を続ける丸山さんのキャラがいい。唯が「四十歳オーバーのギャル」と評する彼女のフラットさが、物語の要所で良いアクセントになっている。

 生きること、生きていくことの“杖”になるような物語である。

週刊朝日  2021年9月24日号

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