黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、光通信の接続工事について。

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 去年の秋、NTTから封書が来た。《「フレッツ・ADSL」サービス終了のお知らせ》とある。2023年1月31日をもってサービスの提供を終えるため、光通信を勧める内容だった。

 なにごともものぐさなわたしは放っておいた。2023年になってから考えればいい、と。

 三月、パソコンの調子がおかしくなり、パソコンマスターのMさんに直してもらったのだが、そのとき、「このネット環境はめちゃくちゃ遅い」「いまどき、ADSLを使うてるひとは珍しい」といわれた。

 そういえば、ネットフリックスで映画を観ているときもよくフリーズする。Mさんに訊くと、光通信にすればそれも解消するだろうということだったから、わたしは俄然やる気になり、四月のはじめ、NTTに電話をして『フレッツ光ネクスト』というものを申し込んだ。

 光通信の接続工事は五月六日だった。工事担当者がふたり来て、既存の電話配管から光ファイバーを引き込むべく作業していたが、うまくいかない。配管のどこかが詰まっているか、外れているのだろうという。

「ほな、どうしたらええんですか」と訊くと、「新たに配管をしてもらうしかないですね」と来た。

 光ファイバーだけのために壁を壊すわけにはいかないから、床下にファイバーを這わせてくれといったが、そんな工事はできない、といわれた。裸配線は社内ルール違反らしい。

 担当者と話しあって、庭の隅にファイバー引き込み用のポールを立てることにした。そのポールから家の床下に配管を延ばして、いまモデムを置いているところまでつなぐのだ。その配管が完了すれば再度、引き込み工事をすることになった。

 わたしは近所の電気設備業者に電話をした。どこも光ファイバー用の配管工事はしたことがないといって断られた。それでも六軒目の業者が「現場を見ましょう」といい、配管工事をしてくれることになったが、法令でポールは四メートル以上の高さが必要だと分かった。たかだか一本のファイバーを引き込むために、えらく面倒な工事を強いられ、その工事費も安くはなかった。

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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