春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「Tシャツ」。

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 おじさんになり、Tシャツ一枚でおもてに出ることが少なくなりました。布一枚ってのはなんか気恥ずかしい。それに私は標準より乳首の標高が高いのです。「チョコベビー(C)明治」を縦にしたような、ツンとすましたお乳首様が鎮座ましまして、Tシャツ一枚ではこの乳頭が目立つのです。時折、街なかのショーウィンドウに映る己のTシャツ姿が目に入り頬を赤らめたりしています。恥ずかしくて、チョコベビーが「ピッカラ ブルボン」になっちゃう。

 でもTシャツというものはなんでこうドンドン溜まっていくのでしょう。まめに処分していかないと。いい機会なので収納内のTシャツをチェックしてみました。

 沖縄土産の定番「海人(うみんちゅ)」Tシャツが2枚。着たことない。皆さんもきっと1枚は持ってるでしょう。この世にはきっとこっそり「海人」Tシャツをタンスに忍び込ませる妖精がいるのでしょう。

 の写真がプリントされてるヤツは「うちの子、可愛いでしょ。寝間着にこれあげる」と、知らないオバさんにどこかでもらったTシャツ。断れずにもらったけど一回も着てない。もうホント要らない。寝間着でも嫌。だってそれほど猫が可愛くないしだな。誰なんだ、あのオバさん。

 プロレス関係も多いです。わざわざ自分が楽しむためにTシャツを作り「よかったら着てください!」とプレゼントしてくる変わり者ファンがいます。いつもありがとうございます。キラー・カーン(米時代)、タイガー・ジェット・シンのTシャツが一番お気に入り。胸の似顔絵の上にシンのニックネーム「saber tiger(サーベルタイガー)」と書かれていて、背中には相方の上田馬之助の顔写真がプリントされている。電車のなかで知らないおじさんから「いいご趣味ですね!!」と握手を求められたこともあります。背後の小学生が「オバさんの顔」と指をさしてきたり。オバさんじゃないよ、おじさん! 金狼! まだら狼! トライデント・シュガーレスガムっ! こう見えてめちゃくちゃいい人なんだぞ。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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