そんなことで、今年の瀬戸内の誕生日は悲しいかな、病院で迎えました。

 誕生日前後には、お祝いの花や、プレゼントがたくさん届きます。それに対応するので、私たちスタッフはてんてこまいです。それが今年は当の本人がいない誕生日、なんだか寂しかったです。

 その日は病院で瀬戸内と一緒にケーキを食べ、頂いた花やプレゼントを撮影した写真を見せました。今年で満99歳の瀬戸内には、「祝白寿」とどのメッセージにも添えられていました。

 横尾先生の仰る通り、瀬戸内は「早く死にたい」とそればかり言います。「生き飽きた」とも。こうして、体の不調が見つかり、痛い思いをするとより、そう思うようです。

 しかし、痛みはすぐに忘れ去り、またいつもの元気な瀬戸内に戻ることを確信しています。もう死にたいとか、仕事辞めようかな、とよく言いますが、「最後に書いてみたい小説がある」と言うので、「なんだ、生きる気満々じゃないですか!」と思うのです。

 横尾先生が芸術家は「今」が最高だと仰いました。そして輪廻しながら転生すると。いやいや描いている横尾先生が、それでも「今」が最高だと仰ることには驚きました。体が衰えていく、「今」だから描けるものがあるということですね。

 私は事あるごとに、後悔したり、自分にがっかりし、自分を嫌いになったりします。うまく自分自身を操縦できません。

 横尾先生は、自分にがっかりされることはないのでしょうか? 悩みごとはありますか? 落ち込んだりしないのでしょうか?

 瀬戸内は、いつもあっけらかんとしていて、自分に自信がない、ということが今までなく、いつも自分を信じてきたと言います。私がまたうじうじ悩んでいると、呆れられてしまいそうです。

 人間は進歩するものだと思うから、そうでない現実に悩むのでしょうか?

 変化と繰り返し、と思えば少しは気楽に考えられるような気もします。

 なんだか私の悩み相談みたいになってしまいました。

 自分をうまく操縦する方法、ぜひお聞かせください!

週刊朝日  2021年6月4日号