林:それは何年後ぐらいですか。

福岡:5年から10年だと思います。短兵急に何かやろうとすると、必ずそれに対するリベンジが起きて、変異型が出てきたり、「ワクチンを早く打たなきゃいけない」みたいになってしまう。だから今のコロナ禍と言われている状況は、人間がつくり出したある種人災的な側面があると思います。

林:なるほど。生物学者の先生として、いま気をつけていらっしゃることは何ですか。

福岡:迷走生活を心がけてます。私たちは迷走神経というのを持っていて、迷走神経は体をリラックスさせる副交感神経系で、それを大切にする生き方ですね。私たちの免疫システムはリラックスしてないと活性化しないんです。ストレスがかかるとステロイドホルモンというのが出て免疫を抑えてしまう。ストレスをなるべく忘れ、良いことも悪いことも流れていくんだという、リラックスした気持ちで世の中をとらえるのが迷走生活なので、そういう状態をつくっていれば、ウイルスがやってきても通り抜けていくわけです。

林:でも私なんて、口うるさい夫がうちにいるからストレスだらけですよ(笑)。それはどうしたらいいですか。

福岡:なるべく忘れましょう(笑)。

林:先生もイヤなことがあったらすぐ忘れちゃうんですか。

福岡:ええ、すぐ忘れます。

林:どうやって? きれいな蝶々の図鑑を見たりしてですか?

福岡:そう、きれいな蝶を見て。本当にコウトウキシタアゲハの羽の色は美しいんですよ。これを見ると、高級ワインを嗅いだみたいなスーッとした気分になって、イヤなことを忘れちゃうんです。

林:ほぉ……。イヤなことを忘れる何かが大事というわけですね。今日はいいお話をうかがいました。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/1959年、東京都生まれ。京都大学卒業。ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授、ロックフェラー大学客員研究者。著書にベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』『できそこないの男たち』など多数。4月から朝日新聞で「福岡伸一の新・ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う」連載中。ノンフィクション版の紀行『生命海流 GALAPAGOS』も近日刊行予定。

週刊朝日  2021年5月28日号より抜粋