福岡伸一(右)と林真理子さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
福岡伸一(右)と林真理子さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
福岡伸一 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
福岡伸一 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。連日、メディアでは医師による解説がほとんどですが、生物学者として福岡伸一さんはどう捉えているのでしょうか。作家の林真理子さんの対談で、変異株やワクチンのことなどを語りました。

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林:コロナについてのご意見を聞かせていただきたいんですが、いま変異株が出てきてますよね。あれはウイルスからすると、「人間がワクチンを使って攻めてきたから、こっちも攻撃しちゃうぞ」ということなんですか。

福岡:抗生物質と微生物の戦いみたいに、抗生物質で微生物をやっつけようとすると、いったんはやっつけられても、新しい環境の中で必ずそれを凌駕して新しいタイプのものが出てくるんです。これが生命のある種のたくましさであって、それを私は「動的平衡」と言ってるんです。

林:はい。

福岡:絶えず合成と分解を繰り返しながら、ちょっとずつ変わっていって新しい道を見つけていくのが生物なので、ワクチンでウイルスをやっつけようとすると、そのワクチンの網目をすり抜けて、さらに増殖できるタイプのウイルスが選抜されてくる。それが変異株なんですね。その変異株に対してさらに新しいワクチンをつくって攻撃すると、それである程度抑えられても、そのあいだをすり抜けてまた新しいタイプのウイルスが出てくる。だからイタチごっこになると思いますね。

林:毎日、テレビのワイドショーでお医者さんたちがいろいろ言ってますが、生物学者の先生が見れば「ちょっと違うな」と思うこともいっぱいあります?

福岡:そうですね。ウイルスは自然の一部なので、昔からいるし、これからもいるわけです。だからこれに打ち勝つとか撲滅するなんてことは絶対にできないです。ただ、ウイルスは自然なものだけれども、私たちの身体も自然なもので、外敵に対してそれを制御する免疫システムというものをちゃんと持っている。つまり自分の免疫システムが最高のワクチンなんですね。だから自分が自然に持っている免疫システムと自然物としてのウイルスとのあいだに動的な平衡状態ができて、せめぎ合いがある程度おさまるような状態、つまり新型コロナウイルスがインフルエンザと同じように、ある種の季節性の風邪のように「今年も予防注射を打っておきましょうか」程度のリスクとして受容できるような時点に、何年後かには必ず達する。それをゆっくり待つしかないんですね。

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