直接言われないことをいいことにあぐらをかいていたら、「このへんのもの捨てていい?」とにこやかに言われ、おののいたのは記憶に新しい。自らの責任と重々承知はしているものの、通常勤務ならこうした事態は起こらず、肩身が狭い思いをすることもなかった。ついそう考えてしまう。

 在宅勤務が続いていることが原因で、相手に不満を募らせてしまう夫婦は多い。

「3食を自宅で取るのでいつもより洗い物は増えているのに、なぜそれに気づけないのか」
「昼食をとる時間が別で、こっちが仕事中に強烈なにおいのタイ料理とか食べられると腹が立つ」
「在宅で夫婦の会話も増えたけど、やってくれないことが目について憎さも増えた」

 取材を重ねると、こうしたグチが出るわ出るわ。小さい子どもがいる家庭では「保育園への送り迎えをどちらが行くかでもめる」という話もあった。だが互いに不満をため込み、いがみ合ってしまえば、徐々に居場所はなくなっていく。

 心理カウンセラーの石原加受子さんは、夫婦間に横たわる不満の種の多くは「コロナ以前からあったもの」と指摘する。

「多くは家事、育児をめぐるいさかいですが、これまでは観察する機会が少なかったのでトラブルに発展せず済んでいた。コロナ禍で在宅勤務が増え、家にいる時間が長くなったことで、我慢できていた不平不満があぶりだされたのでしょう」

■家事率先の夫に小言連発する妻

 相手の嫌なところ、足りないところが目につくようになり、つい指図や命令をしたり、小言を言ったりしてしまう。相手のやり方と自分のやり方の違いを認められずに、自分のやり方に従わせようとしてしまう例もよくあるという。

 先述のTさんは食後の皿洗いなど率先してするようになったが、ボヤキが止まらない。

「洗った後に水切りかごに食器を重ねていっても、並べ方に注文をつけられたり、洗い方が足りないと指摘されたり。良かれと思ってやっているのに、これではやる気がそがれるだけです……」

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