直木賞作家の“美大受験”物語 予備校講師に「セコい」と感じたワケ (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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直木賞作家の“美大受験”物語 予備校講師に「セコい」と感じたワケ

連載「出たとこ勝負」

黒川博行週刊朝日#黒川博行
黒川博行・作家 (c)朝日新聞社

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※写真はイメージです (GettyImages)

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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、美大受験について。

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 大学受験合格者発表たけなわ──。一般大学の試験や勉強法について書かれたものは多々あるが、美術・音楽系のそれはほとんど眼にしたことがないので、書いてみる。

 いまから五十五年前の昭和四十一年、わたしは高校三年生になった。クラスメートの多くは受験勉強をはじめていたが、わたしには目標も将来設計もない。とりあえず働くのはイヤだから、夏休み前、担任との面談で、大学へ行きたいといったら、京都の私大を勧められた(わたし、理数系はからきしだが、文系は英・国・社の三科目で受験できる私大が多くあった)。

 家に帰って母親に報告すると、私大はあかん、と強くいわれた。学費が高いから。さてどうしたものかと、おそまきながら国公立大学の募集要項を調べると、京都市立美術大学の試験が英・数・国・社の四科目だった。それも数学は“数I”だったから、微分積分で挫折したわたしも、なんとかなるかもしれない。

 そうや、デザイナーになろ──。まさに天啓だった。妄想はとめどなく広がり、自分がデザインしたポスターや製品が世間でもてはやされる。おれは第二の田中一光、横尾忠則になる、と本気で考えたからめでたい(このとき、デザイン科の前年度の倍率が三十倍超だったとは知らなかった)。

 京都美大の募集要項には“実技”があったから、美術の教師に訊きに行った。デザイン科の実技試験は“デッサン”“色彩構成”“立体造形”だといい、実技の予備校を紹介してくれた。

 夏休み、夕陽ケ丘のビルの一室にある美術予備校に行くと、講師陣は四人で、それがみんな公立高校の美術教師だったのには驚いた。なんのことはない、自分たちが教えている高校の美術大学志望者に、月謝をとって実技を教えているのだった(わたしはのちに高校美術教師になったが、こんなセコいことは考えたこともない。そもそも美大志望の高校生に受験指導をするのも美術教師の給料のうちだろう)。


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