では、どうすればよいのか。佐藤氏や市民シンクタンク「原子力市民委員会」では、デブリを取り出さずに原子炉内に保存する「長期遮蔽(しゃへい)管理」を提唱する。原子力安全委員会事務局で技術参与を務めた経験を持つ同委員会メンバーの滝谷紘一氏が説明する。

「現在は格納容器内に水を注いでデブリを冷やしていますが、それを自然空冷で冷やします。事故から10年が経過した現在、デブリの発熱量は多く見積もっても45キロワット程度。比較的温度の高い圧力容器内のデブリでも中心温度はセ氏430度ほどで、溶融温度の2800度と比べて余裕がある。自然対流による循環で十分冷やせるのです」

 格納容器内に充填した窒素ガスがデブリを冷やし、熱を持った窒素は容器の鋼板とコンクリートの間にあるおよそ5センチの隙間を煙突効果で上昇。運転床上(オペレーションフロア)の空間で自然に冷やされた後、原子炉建屋内を下降し、両側下部にあるトーラス室から再び格納容器内へ入る仕組みだ。

「放射性物質を環境中に出さないようにするために原子炉建屋内は負圧(屋外に比べて気圧が低いこと)にし、建屋の周囲はコンクリートのパネルで覆います。新たに作るのは仕切り壁やダクトぐらいでコストも抑えられる。水を使わないことで汚染水が増えないのもメリットです」

 滝谷氏は、そう説明する。

 東電は汚染水を海洋放出し、汚染水タンク跡地を取り出したデブリの保管場所にする予定でいる。デブリを取り出さず原子炉建屋内に保管すれば、たまっている汚染水の処分も先延ばしにすることができる。

 さらに前出の佐藤氏は、福島第一原発の敷地を囲いながら海へつながる堀をつくることを提案する。地下水が原子炉をバイパスすれば、汚染水の発生を防げるからだ。

 滝谷氏と同じ原子力市民委員会のメンバーで、元プラント技術者の筒井哲郎氏も、急いでデブリを取り出す必要はないと話す。

「最終処分場が決まっていない現状では、デブリを取り出したとしても福島第一原発の敷地内に保管することになる。管理の難しさやテロの標的になるリスクを考えたら、原子炉内に置いておくほうがまだまし。いずれ安全に取り出せる技術が確立されるかもしれません」

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