デブリは1号機から3号機まで約880トンあるとされ、国際廃炉研究開発機構(IRID)が試験的取り出しの準備を進めている。

「2号機の格納容器に横から長さ約22メートル、重さ約4.6トンのロボットアームを差し込み、粉状の燃料デブリ1グラム程度を数回に分けて取り出します。試験的取り出しが終われば、アームの長さを短くして重さ20キロ程度まで持てるようにして、段階的に多くのデブリ取り出しを進める予定です」(IRID広報部)

 試験的取り出しは本来なら今年から始まる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で英国でのロボットアームの開発が遅れているため、1年程度延期された。

 しかし、そもそもデブリの取り出しはできないとの声も専門家の間から聞こえてくる。元ゼネラル・エレクトリック・ニュークリアエナジーの社員として、同社の福島第一原発事務所長を務めた佐藤暁氏もその一人だ。

「デブリは溶融熱でコンクリートを溶かしながら、格納容器下部にあるペデスタル(基礎部分)やさらにその下の底へ広がり、構造物にこびりついています。ロボットアームを格納容器の横から入れて、数グラム程度のデブリ採取なら可能ですが、本格取り出しとなると難易度のレベルが全く違う。アームを複雑に動かしながら底部に固着したデブリを取り除き、さらに上部の圧力容器に向けても伸ばしていくことなど、今の技術でできるわけがありません」

 仮に2号機で試験的な取り出しができたとしても、1号機と3号機は放射線量が高く、試験的な取り出しすら困難だという。

「結局、2号機で数グラムのデブリを採取したら手詰まりになるのは目に見えている。その後は他の方法を考えることになるでしょう。全量取り出しができないことぐらい原子炉の専門家なら明白にわかることですが、最初に方針を掲げてしまったため、後戻りできないでいるのです」(佐藤氏)

 デブリの全量取り出しを決めた背景には、地元への配慮があるからだという。だが、いまのまま突き進めば、取り出しにかかる1兆3700億円が無駄になりかねない。

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