福島第一原発の敷地内に並ぶ汚染水をためるタンク(手前)=2019年8月 (c)朝日新聞社
福島第一原発の敷地内に並ぶ汚染水をためるタンク(手前)=2019年8月 (c)朝日新聞社
受動型空冷システムの概念の説明図(滝谷紘一氏提供) (週刊朝日2021年3月19日号より)
受動型空冷システムの概念の説明図(滝谷紘一氏提供) (週刊朝日2021年3月19日号より)

 東日本大震災から10年。事故が起きた東京電力福島第一原発の廃炉作業は、多額の国費を投じて、最難関と見られる溶融核燃料(デブリ)の取り出しを準備する。原発増設に向けた動きも表面化してきた。だが、専門家からは疑問の声が相次ぐ。ジャーナリストの桐島瞬氏が現状を報告する。

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 2月13日、福島沖をマグニチュード7.3の地震が襲った。福島第一原発のある福島県大町と双葉町の震度は6弱。10年前の6強に迫る揺れだった。

 この地震で、原発内には数々の異変が起きていた。5、6号機の使用済み燃料プールの水が揺れであふれ、同時に1、3号機の格納容器内の水位が低下。さらに1号機の格納容器内の圧力も大きく下がったままだ(3月5日現在)。東京電力によると、原因はまだわかっていない。

 福島第一原発の廃炉作業に関わるプラント関連企業の幹部が言う。

「1号機の格納容器の圧力が下がったということは、充填している窒素ガスが外へ漏れ出たということ。窒素ガスは格納容器内での水素ガスの発生を抑えるために入れているため、それが減って酸素が増えれば出火リスクが高まります。万一、大きな火災にでもなれば、住民が避難しなければならなくなる事態もあり得ます」

 こうしたリスクに加え、東京電力の気の緩みと思える失態もあった。

 昨年、3号機に設置した2台の地震計の故障を放置していたため、揺れのデータを記録できなかったのだ。これには梶山弘志経済産業相が「誠に遺憾」と述べ、原子力規制委員会も東電の対応を検証する考えを示した。

 なぜトラブルが多発するのか。先ほどの幹部はこう指摘する。

「現場にベテラン作業員がほとんどいなくなってしまったのが一つの原因です。そのうえ、廃炉作業に関する世間の関心も薄れつつある。現場の緊張感が薄れ、本来なら起こり得ないことが起きているのです」

 そんな中、廃炉作業は最難関と見られるデブリの取り出しが始まろうとしている。原発事故の際に、圧力容器や格納容器のあちこちに飛び散り溶け落ちた核燃料を取り出す作業だ。

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