東尾修
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ブルペンで投球練習をする巨人・菅野智之=2月9日、那覇市 (c)朝日新聞社
ブルペンで投球練習をする巨人・菅野智之=2月9日、那覇市 (c)朝日新聞社

 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、進化する巨人の菅野智之投手について語る。

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 プロ野球のキャンプはこれから対外試合などの実戦段階に入る。若手は3月中旬までの期間でどれだけレベルアップを首脳陣にアピールできるかとなる。だが、主力は違う。この時期だからこそできる実験がある。

 巨人の菅野智之が新しい試みをしているという。ブルペン投球でプレートの一塁側を踏んで、投球練習を行った。本人もメディアを通じて「まだ試している段階なので確定的なことは言えないですけど。軌道であったり、これまでの見え方との違いとかを確認して、これからも投げていきたい」と話しているニュースを目にした。

 私も現役時代、一塁側を踏んで投げていた。スライダーを得意とする右投手は、三塁側を踏み、右打者のより遠くへと逃げる軌道を生かすといったことが多かった。だが、私は一塁側を踏むことで、シュートをより右打者の内角に食い込ませる角度をつけたかった。

 選手の持ち球によってその方法論は変わる。そしてリリースの位置、球の軌道など、視覚的なデータがそろう今の野球では、投手はその日によって、プレートの位置を微妙に変える器用さがあれば、また引き出しを増やせる。だが、これは非常に難しいことだ。

 投手のプレートの位置で体の使い方、捕手方向へ向かうベクトルが数センチずれれば、本塁ベース上に到達する時には何倍もの誤差になる。それを小手先だけで調整しようと思えば、球にキレはなくなってしまう。

 私が一塁側を踏んだのは、シュートを生かすためだけではない。スライダーを右打者の内角ボールからストライクゾーンに入れるインスラ、左打者の外角ボールからストライクゾーンへ入れる「バックドア」と言われる軌道を生かす意図もあった。

 野球に詳しくない方はイメージできないかもしれないが、プレートの踏む位置を変えることで、打者からの見え方は大きく変わるということだ。

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東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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