■皇女の動物園の危機に立ち上がる岡山市民/池田厚子さん(89)

 ツキノワグマやライオンなどが入る動物舎はひどく老朽化し、檻(おり)はさびだらけだ。檻の前には「1年分の餌代」の説明書きがあった。岡山市の市街地の北に位置するこの池田動物園は、昭和天皇の四女・池田厚子さん(順宮)が園長を務める。

 厚子さんは21歳だった1952年、皇女から「牧場夫人」へと転身した。お相手は旧備前岡山藩主・旧侯爵家の16代当主、池田隆政さん。隆政さんは学習院高等科卒業後、岡山で牧場を経営し、家畜改良などに打ち込んだ。

 結婚を機に動物園を開園。新居は敷地内のフラミンゴの池のそばに建てられ、観光客が「厚子さんと一緒に写真を」と玄関先で頼み込む光景も。厚子さんは自ら園内を清掃することもあった。その姿を見た地元民から「皇女が草むしりか」とうさわをされながらも、努力のかいもあって87年度の入場者は18万人超を記録した。

 厚子さん自身は30代で敗血症を患って長期入院した時期もあったが、奉仕活動をする国際ソロプチミストに参加するなど地元に溶け込んだ。

 88年からは、姉・鷹司和子さんのあとを受けて伊勢神宮の祭主となり、17年に黒田清子さんに引き継ぐまで務めた。

 一方で、平成に入ると園の経営は苦しくなった。2004年度の入場者は87年度の約半数にまで落ち込んだ。

 さらに今年は、コロナ禍による休園と入場者減が追い打ちをかけた。

「現在の累積赤字は2億4000万円前後でこれまでと変わりません。他から借金をしているわけではないので、大丈夫です」

 と園の担当者は話す。赤字分は池田夫妻が補てんしてきたというが、返済のめどは立っていない。市民が有志で「池田動物園をおうえんする会」を結成。寄付金を募り、公営化をめざして市に働きかけているが先は見えない。

 それでも昨年、動物園に新しい入場ゲートが完成。記念式典に池田厚子さんが姿を見せ、テープカットをするなど明るいニュースもあった。

 厚子さんはいまも園の敷地内にある自宅に住む。

「コロナで外出はされませんが、お元気です。たまに営業していないときは園内にもおいでになりますよ」(園の担当者)

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“サーヤ”の愛称で親しまれた元皇女