朝鮮戦争休戦8年後の61年に刊行された、韓国で初めて南北分断を描いた小説。韓国の高校の教科書でも出てくる名作。韓国社会では南北分断がどんなものだったのか、歴史に翻弄されて生きる市井の人たちの心の揺れや苦悩が伝わってきます。

『1945, 鉄原』
著:イ・ヒョン/訳:梁玉順/2420円(影書房)
日本からの「解放の日」である1945年8月15日。混乱の中、若者3人が38度線を越えてソウルへ向かう冒険的な行動に出る。彼らの人生は?

 韓国では青少年向けに書かれた小説ですが、世代を超えて読み応えあり。歴史のうねりの中、親の支配なども乗り越え、生き抜く姿が描かれています。辛辣な出来事も降りかかり、そこもまたリアル。3年後を描いた続編『あの夏のソウル』も。

『少年が来る』
著:ハン・ガン/訳:井手俊作/2750円(クオン)
韓国現代史上最大の悲劇といわれる民主化抗争から約35年。丹念な取材を元に死者と生き残った者の声にならない声を丁寧にすくいとった衝撃作。

 マン・ブッカー国際賞受賞作家の渾身作。自身が光州出身だったこともあり、いつかは書かねばならないと思うテーマだったそう。丁寧な取材を重ね、実在していたかのような登場人物のリアルさに、切なく苦しくなりますが、一人でも多くの人に読んでほしいです。

『目の眩んだ者たちの国家』
著:キム・エラン、パク・ミンギュ、ファン・ジョンウン、キム・ヨンスほか/訳:矢島暁子/2090円(新泉社)
セウォル号沈没事件を目の当たりにした韓国の作家、社会学者たちが文芸誌で自分の言葉で思いを語り、真摯に論じ合った。本書はそれをまとめた一冊。

 日本でも連日報道されたセウォル号事件は、韓国社会と国民の心に深い傷をもたらしました。普段は小説など作品で表現する作家たちですが、彼らが自分の言葉であの事件についてどう感じ、何を考えたかを率直に語っており、すごく考えさせられます。

■ 韓国文学の多彩さがわかる

『鯨』
著:チョン・ミョングァン/訳:斎藤真理子/2420円(晶文社)
特異な運命を歩んだ2組の母と娘の物語だが、一言では表しづらい、人間の欲望を壮大なスケールで描き出した一大叙事詩。骨太な小説。

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