映画「ホテルローヤル」は、13日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開/(c)桜木紫乃/集英社 (c)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会
映画「ホテルローヤル」は、13日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開/(c)桜木紫乃/集英社 (c)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会
安田顕(撮影/張溢文)
安田顕(撮影/張溢文)

 人気バラエティーでは突き抜けた言動で周囲を笑いの渦に巻き込み、芝居では二枚目から三枚目、正気から狂気までを行き来する俳優・安田顕さん。映画「ホテルローヤル」では波瑠さん演じる主人公・雅代の父・大吉を演じた。彼が、老け役を演じる際にイメージしたのは父親だった。

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前編/安田顕 ダメな自分を肯定する処世術「適度に適当に、でも的確に」】より続く

 安田さんは、30代半ばの頃に文芸誌に家族についてのエッセーを連載し、それは9年前、『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』という一冊の本になった。映画「ホテルローヤル」で、自分より年上の大吉を演じるにあたり、そのエッセーに登場する父親のことを、どこかでイメージしたりしたのだろうか。

「あー、確かに、それはあったかもしれない。老けメイクすると、どんどん親父に似てくるし(笑)。家族って不思議ですよね。好きであれ、嫌いであれ、優しい親であれ、厳しい親であれ、誰もが生まれた環境からは逃れられない。有り難いことにウチの両親は健在ですけれど、いつかは仏さんになるわけです。ただ、家族に対しては、小さい頃に抱いた感情、今抱いている感情、これから抱く感情、そのすべてが、絶対に体の隅々に記憶として残る。そこからは逃れられないんだなってことが、不思議で愛おしいです。この作品でも、大吉を演じているときに、脳裏には自分の親父の姿がよぎっていますからね」

 俳優というのは、自分の仕事が明らかに目に見える状態で提示される職業である。「オール北海道ロケでもありますし、この映画をご両親に観てほしいですか?」と尋ねると、「観てほしいというか、観てくれることを当たり前だと思ってしまっているところがあるかもしれないですね」という。

「ただ、この夏、私の主演舞台が札幌で上演されたとき、両親がわざわざ室蘭から札幌まで観に来てくれたことには、特別な感慨がありましたね」

 舞台の稽古が始まると、現場では様々なジレンマとの闘いだった。

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