「マスクをしながら、ソーシャルディスタンスに気をつけながらの稽古に、舞台に携わるスタッフ、出演者はそれぞれ複雑な思いを抱えていました。芸能界だけじゃなく、働いている人なら誰でも、今までと違う不自由を強いられたりしたと思います。もっと言えば、職を失う覚悟をした人だって大勢いる。そんな中で、僕らはまだ恵まれていたほうでしょう」

 コロナ禍での上演だったので、両親には、「札幌まで来てくれなくていい。無理はしないで」と伝えた。

「それでも、70代後半の親父と、70代のお袋が揃って、46歳の息子の舞台を観に来てくれた。そのときは、『こうして舞台に立たせてもらってよかったな』と心から思いました」

(菊地陽子 構成/長沢明)

安田顕(やすだ・けん)/1973年生まれ。森崎博之、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真と演劇ユニット「TEAM NACS」を結成。舞台、映画、ドラマなどを中心に幅広く活躍中。主演映画に、「俳優 亀岡拓次」(2016年、横浜聡子監督)、「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」(18年、李闘士男監督)、「愛しのアイリーン」(18年、吉田恵輔監督)、「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」(19年、大森立嗣監督)など。

週刊朝日  2020年11月20日号より抜粋