大竹しのぶ・女優 (撮影/加藤夏子)
大竹しのぶ・女優 (撮影/加藤夏子)
撮影中もずっと微笑みを絶やさないほがらかな大竹さん。11月の舞台が楽しみだと笑う (撮影/加藤夏子)
撮影中もずっと微笑みを絶やさないほがらかな大竹さん。11月の舞台が楽しみだと笑う (撮影/加藤夏子)

 主演舞台が中止になり、自粛期間に突入した大竹しのぶさん。どんな心境で過ごし、自粛明けに何を思ったのか。

【大竹しのぶさんの写真をもっと見る】

 コロナ禍の影響で4月5日、舞台「桜の園」の全公演中止が決定した。演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが、チェーホフの4大戯曲を上演する“KERA meets CHEKHOV”。2013年にスタートしたそのシリーズの最終章が「桜の園」だった。大竹さんは、第1弾の「かもめ」以来、7年ぶりの出演だったが、「中止」の一報を聞いた時、それまでに味わったことのない喪失感に襲われた。

「本当に、すっごく面白い舞台だったんです。観た人のすべてに『チェーホフってこんなに面白いのか!』って思ってもらえる内容でした。それが誰にも観てもらえずに、KERAさんの素晴らしい上演台本も、素晴らしいセットも衣装もすべて咲かぬまま散っていく……。あの喪失感は、一生忘れられないと思います」

 心に空洞を抱えたまま自粛期間に入った。ストレスは感じなかったが、家事などに追われ、特別なことは何もしなかったし、新しいことは何も始めなかった。

「あの2カ月で、自分がいかにナマケモノかということが立証されました。朝起きて、ご飯を作って、洗濯してお掃除をして、スーパーに行ってご飯を作る。そんな毎日。時間があると、Netflixで話題の『愛の不時着』を観たり(笑)」

「演じたい」「仕事に復帰したい」という疼きもなかった。でも、6月にWOWOWの「劇場の灯を消すな!」という番組の収録のために、シアターコクーンを訪れた時、日常と地続きにありながら、一瞬にして非日常へとトリップできる劇場空間の気配に触れ、久しぶりの興奮を覚えた。

「松尾スズキさんの演出で、井上ひさしさんの『十二人の手紙』を(中村)勘九郎くんと朗読したんです。久しぶりにコクーンに行って、『ああ、劇場っていいなぁ』って心から思いました。そうしたら、少しずつ舞台の上演が再開し始めて。8、9月と友人の芝居を何本か観劇しました。劇場に入る時、一人ひとりに入念に行われる消毒と検温。ワクワクしながら入るはずの劇場が、こんなふうにビクビクしながら入る場所になってしまったことは少し寂しかったです。お芝居が始まったら、そんなこと忘れちゃうんですけど」

(菊地陽子、構成/長沢明)

大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)/ 1975年、映画「青春の門」のヒロイン役で本格デビュー。近年の舞台出演は、「ピアフ」「LIFE LIFE LIFE」「出口なし」など。NHK大河ドラマ「いだてん」に出演。2016年にはNHK紅白歌合戦に歌手として初出場。「愛の讃歌」を収めたCD「SHINOBU avec PIAF」をリリースした。21年1月には、栗山民也演出の舞台「フェードル」の再演が控えている。

>>【後編/大竹しのぶ コロナ時代に名作「女の一生」で主演する意味】へ続く

週刊朝日  2020年10月23日号より抜粋