9月16日に発足した菅義偉内閣(C)朝日新聞社
9月16日に発足した菅義偉内閣(C)朝日新聞社

 安倍政権を陰で支配していた男が、表舞台に躍り出た。第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉首相(71)は、表向きは安倍前首相からの「禅譲」を演出しながらも、権力掌握のための緻密な戦略を展開している。その真意はどこにあるのか。閣僚の“身体検査”を通じてチェックしてみよう。

 菅義偉首相の座右の銘は、「意志あれば道あり」。周囲の反対を押し切り38歳で横浜市議に立候補して初当選した経験から、今もこの言葉を大切にしている。では、9月16日に発足した新政権の“意志”はどこにあるのか。

 閣僚20人のうち、初入閣は坂本哲志1億総活躍相や野上浩太郎農水相ら5人のみ。安倍政権からの再任は8人、ポストが変わって引き続き閣僚を務めるのが3人、再入閣が4人と、安倍内閣からのほぼ「居抜き」で、地味な印象は否めない。

 ただ、「安倍政権の継承」を掲げる布陣の裏には深謀遠慮が見え隠れする。菅首相は官房長官として7年8カ月もの間、人事権を駆使して霞が関官僚を操ってきた人物だ。総裁選中に出演したテレビ番組でも、政権の政策に反対する官僚は「異動してもらいます」と断言。人事権への執着が官邸主導政治を支えてきたのは衆目の一致するところだ。政治ジャーナリストの田中良紹氏は言う。

「権力者は、自らを担ぎ上げた人物を切らなければ本物の権力を手に入れられない。中曽根康弘は田中角栄氏の後ろ盾で首相になったが、首相になると『角栄切り』を画策した。菅氏は今回の人事で表向きは安倍カラーを残しながらも、その真意は『安倍切り』にある」

 その最たる例が、安倍政権で長く首相補佐官を務め、今回、内閣官房参与に就任した今井尚哉氏。今井氏は安倍政権の政策全体を統括し、官邸官僚の代表格だった。

「参与はアドバイザー的な仕事で、実務はほとんどできないでしょう。一方で、菅首相の懐刀である和泉洋人首相補佐官は再任された。これで官邸官僚の力学が大きく変わります」(田中氏)

次のページ
総務相人事から読み取れる安倍政権との「決別」