実はこれ以前にも、恵子さんは会社が要請する保育士減らしに反発し、上層部から目をつけられていた。保育園には園児数に対する保育士の最低配置基準があり、基準ギリギリまで人数を減らせば人件費が抑えられ、会社の利益になる。が、その分現場に負担がかかり、保育の質や安全面にも影響が出るため、恵子さんは首を縦に振らなかったのだ。社長が口にした「適正な人数」とはこのことである。

 Xグループで削減されているのは人件費だけではない。筆者が入手した内部資料からは、園での日々の出費に使われる小口現金が園児1人につき月2千円分しか渡されていないことがわかった。それで玩具や絵本、クレヨンなどの保育材料費のほか、トイレットペーパー類、アレルギー用のミルクやおやつ、水回りの修繕費まで賄わなければならない。結局、足りなくなるため「社員が自腹を切っている」と、複数の関係者が証言した。

 内閣府に確認すると、2020年度は保育材料費だけでも、3歳以上の園児で1人当たり月1809円、3歳未満で同2978円が公費で出ているため、明らかに同社の経費は少ない。恵子さんは「玩具や絵本を中古品でしか買えなかった」と嘆く。

 ここまでしてコストカットする一方で、社長は高級外車に乗って保育園を巡回し、ロゴから有名ブランドと一目瞭然のベルトをつけているという。恵子さんは「それを見た保育士のモチベーションが低下した」と憤る。筆者が都内にある社長の自宅を見に行くと、黒い高級外車が車庫に止められていた。

 Xグループに、恵子さんとの面談内容や人事、運営実態などの事実確認のための取材を申し込むと、会社側は「総合的に判断してお断りします」と答えた。

週刊朝日  2020年9月18日号より抜粋