これでは生活していけない部下が出てしまう。恵子さんはそう考え、独断で無資格のパート社員もシフトに組み込んだ。すると、5月上旬に本社から呼び出しを受けたのだった。

 本社に着くと、恵子さんは会議室で社長ら男性の幹部社員4人に取り囲まれた。社長は言った。

「利益が2千万円出ているところ(グループの他の園)も、休んでって、休ませてる。(中略)入り(収入)ばっかりでなく、出(支出)も考えていかないとなんないでしょ。コロナに対しての補助金というのは、あくまでも、(在籍)人数に対して子どもがいなくても出しますよっていうところだからさ。これ、これーぇ、理解できないと、これ、園長(を続けるのは)難しいと思うよ」

 まるで「半沢直樹」で香川照之が演じる大和田取締役のような口ぶりだったと恵子さんは振り返る。実はこの日、不穏な気配を察した恵子さんは、ひそかに会話の一部始終を録音していた。本誌は録音記録を元に、面談のやりとりを再現する。

 社長の発言を受け、恵子さんが「せめて有給休暇を入れてあげたい」と食い下がると、社長は「もともとシフトに入れちゃいけないと言っている」と拒んだ。社長の息子である役員も「有給? (私たちの)メール、読んでます?」と同調し、社長が「あはは」とあざ笑う。目の前で、恵子さんが作成したシフトにバツがつけられていった。

 恵子さんが「シフトに入れないと5月の収入がゼロになってしまう人がいる。会社で休業補償を考えてくれませんか。コロナでも公費は100%出ているはず。こんなことがあっていいのですか」と頼んでも応じない。時折、若い役員が「んふっ」とせせら笑った。

「だからぁ。本当は助けてあげたいよ。ねぇ。だからぁ、適正な人数でやろうって言ってるわけ、常日頃、こっちは。つねひごろぉ~」

 そう言う社長と阿吽の呼吸で、若手役員が恵子さんの発言を遮る。

「この会話をこれ以上、恵子さんとするっていうのは、そもそもあんまり僕ら考えていないので、はい。ご意見は承ります。っていうかたちですね。以上です」

 こうして恵子さんの言い分は通らないまま、5月下旬に園長職を解任されてしまったのである。

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