五木:愛する人が陽性か陰性かわからない時にキスできるか。その時には証明書なんか見せ合ったりするんですかね。互いに疑心暗鬼になって、2メートルも距離を取る。でもそれが日常になった時には、恋愛はどういうものになるんでしょうね(笑)。

姜:そうした変容を受け入れて、それを英語で言えばカスタマイズして、だんだん自分が吹っ切れてどこまで自分流のものにしていけるか。これはまたこれで、非常にスリリングな時代に応じた姿勢なのかもしれません。

 政治を学んだ者としてはね、この200年、日本が目標とし、世界のトップランナーであったイギリスやヨーロッパ、アメリカがね、こんなに低迷しているということはなかったんじゃないかなと考えています。

五木:僕は最近、情報というものに対して非常に強い不信感を抱いています。今日は何人って東京都が発表するじゃないですか。あれも手加減してやっているんじゃないかと多くの人が思っていますよね。しかも専門家に言わせると、PCRも抗体検査も抗原検査も誤差が結構あると。何を信用していいのかわからない、という不安が大きく広がっている。

姜:翼賛的な空気の中で指示待ちの人が多くなり、これでやれって言われればもうそれに従うみたいな流れが強いです。だから自分の道は自分である程度決めたいんだけど、そこにはなかなか踏み込めない。そんな迷いが生じるのもコロナがもたらした世相ですよね。

五木:世の中というものは矛盾だらけなので、一つ一つそれをクリアしていくしか道はないと思います。コロナ禍の根の深さを考えると、台風一過というようなことはないでしょう。こういう風にやったから変わる、というものではありません。ポストとかアフターとか考えずに「これが日常だ」と思って生きるしかない。人生ってこういうものなんだ、と。ですから、とにかくその中で生き抜くという単純なことしかない、と思います。

姜:それに近いかもしれないですが、やっぱり耐えることが楽しみになるような、そういう生き方をしてみようかなと。この8月で70歳になり、古希の年代を迎えましたしね。耐えることは苦しみではなくて、それが楽しみになるような生き方ができれば、と繰り返し自分に言い聞かせています(笑)。

(構成/本誌・木元健二)

週刊朝日  2020年9月11日号より抜粋