新駅舎となった東京メトロの銀座線「渋谷駅」(C)朝日新聞社
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今年開業した東京メトロの日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」(C)朝日新聞社
今年開業した東京メトロの日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」(C)朝日新聞社

 東京地下鉄(東京メトロ)が株式を上場するという観測が高まりつつある。新型コロナウイルス対策や東京五輪の延期に伴って費用がふくらむため、同社の大株主である国と東京都が、上場によって見込める保有株の売却益をその財源に充てるのではないかという見方が出てきた。

【写真】今年開業した東京メトロの日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」

 東京メトロ株は、国が53.4%、都が46.6%をそれぞれ保有する。メトロの準拠法が「できる限り速やかに」株式を手放すよう定めているのに加え、東日本大震災の復興財源確保法も、国に対し、株を売って得た収入を復興財源に充当するよう求めている。そのため、もともと株式上場への期待はあった。

 そんな中で浮上したのが、今回の財源不足への懸念だ。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「国や都が財源を確保する手段は限られ、上場の必要性は高まるでしょう」とにらむ。

「これまでのコロナ対策で都の『貯金』にあたる財政調整基金は大きく減りました。感染拡大が収まらなければ、五輪の開催時期もさらに先延ばしされて延期費用がふくらんでいく可能性もあります。東京メトロの“完全民営化”に、より目が向けられやすくなるのではないでしょうか」

 ただ、上場に向けては課題も多い。国は復興財源の確保に向け、売却自体には前向きだとみられる一方、都はメトロへの影響力を一定程度、維持しておきたい意向が強いとされる。都の担当者はこう話す。

「都内の交通ネットワークのさらなる拡充とサービスの向上が重要だと考えており、その中で東京メトロは大事な役割を果たすと考えています。同社株式の保有についても、こうした状況を総合的に勘案しながら検討していきたい」

 先の通常国会では復興関連法が改正。震災の復興財源にあてるために国のメトロ株を売却する期限が、2022年度から27年度へ5年延びた。上場時期は遠のいたようにも映るが、そう簡単ではなさそうだ。

 コロナ対策で震災の復興が後回しにされるようなことがあれば批判も予想され、そもそも政府が見積もる復興財源は、日本郵政株の売却が計画通りに進んでいないことなどから不足しているからだ。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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