そのため、朝起きたとき、口の中は細菌が30倍にも大繁殖している。そのまま水を飲んだり朝食をとったりすれば、ウイルスや細菌を体に入れることになってしまうのだ。高齢者の場合は誤嚥性肺炎のリスクも高まる。新型コロナウイルスに感染しているときに、外から強力な細菌が肺に入れば重症化することもわかっている。

「まずは歯ブラシやフロスで汚れをよくとること。そのうえで、舌苔のクリーニングを行ってください。細菌の死骸や食べ物のカスが固まった舌苔は、舌の奥の部位にもっともたまります。舌の奥は、のどの粘膜に近く、ウイルスや細菌がつきやすいので、意識してクリーニングしてください」

 いまは、シリコーン製のヘラ型のものや毛の柔らかい舌磨き用のクリーナーなど市販品の種類も豊富だ。

 専用のクリーナーで舌の奥からスーッと滑らせる方法がいい。回数の目安は、汚れ具合によって週1回から数回まで個人差がある。力の加減も難しいため、歯科医院で相談したり、舌の汚れが気になったタイミングで行うのもいい。クリーニングが難しく続けられない人は、朝一番のうがいで、細菌やウイルスを減らそう。

 絶対にやってはいけないのが、歯ブラシで舌を磨くことだと話すのは、前出の吉用院長だ。

「舌を掃除してくださいと言うと、たいていの患者さんは、歯ブラシで力を入れてゴシゴシこすってしまう。しかし、舌の表面は、柔らかい粘膜。歯ブラシでこすれば傷がつき、そこから細菌が入れば本末転倒です。不安な場合は、自己流でやらず歯科医院でクリーニングの指導を受けてください」

 冒頭の高齢者のように、口全体や舌の粘膜が乾燥し炎症を起こしているときは、歯科医院で歯石を除去するなど、炎症を治療するほうが優先だ。

 舌の症状を臨床に生かす舌診の専門医で、奈良県立医科大学の三谷和男特任教授も、行き過ぎた舌掃除には、警鐘を鳴らす。

「舌は、人間の体の中で容易に観察できる粘膜です。病態によって舌が乾燥することもあれば、舌苔が黄色や深紅色や青紫色に変わるなど、診断の大切な手がかりです。大切なのは、行き過ぎた清潔志向で舌苔を全て殺菌することではなく、いかに質のよい常在菌を口腔内に育てるかです」

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