池上彰氏(左)と佐藤優氏 (c)朝日新聞社
池上彰氏(左)と佐藤優氏 (c)朝日新聞社
握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席 (c)朝日新聞社
握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席 (c)朝日新聞社

 各国・地域が独自の感染症対策を取り、国際協調を止めている。こうした姿勢は、激しいワクチン争奪戦に発展しようとしている。2人の「知の巨匠」ジャーナリストの池上彰氏と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、新型コロナウイルスをめぐる世界情勢について語り合った。

【写真】握手する安倍晋三首相と中国の習近平国家主席

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池上:ウイルスの前では、何事も国際協調というわけにはいかないようです。例えば、封鎖にいち早く踏み切った台湾とベトナムは、中国との関係が悪かったからこそ、うまく自分の国と地域を守ることができました。台湾は当然、中国に対する危機を常に感じており、今回も武漢で新型肺炎患者が出ていることをかなり早い段階で察知したわけですね。それで直ちに中国からの入国を断りました。

 一方で、日本は中国の習近平(シーチンピン)国家主席を国賓として招きたいから今刺激するのは困ったな、もうちょっと待とうかな、とうろうろやっていたら、(中国から観光客らが)どっと来てしまったということですね。

佐藤:イスラエルがウイルスの第1波封じ込めに成功したのは、ナチス・ドイツ時代にゲットー(ユダヤ人居住区)でチフスなどの感染症により多くのユダヤ人がなくなったことが教訓になっているということ、テロ対策で個人のスマホに入り込めるシステムがあって感染者の位置情報も把握できるということです。これはこれまでも報道されています。

 報道されていない話で一番重要なことは、実はパレスチナとの間の壁の存在だと思うんです。もし壁がなくて経済的な理由でパレスチナの人たちがイスラエルに帰ってくると、今のイスラエルのような感染防止策はなかなか取れなかったはずです。嫌な話なのですが、結果として見ると、ベルリンの壁よりはるかに高いパレスチナとイスラエルの間の壁というものが感染防止の機能を果たしたということになります。

池上:結局、イスラエルにしても常に様々なリスクに備えるという警戒感を持っています。それで言うと、台湾もSARS(重症急性呼吸器症候群)の時に大混乱した。ベトナムも、ベトナム戦争後の中越戦争で中国軍による侵略を受けたというトラウマがあって、中国に対する警戒を怠らなかった。あえてイスラエルとの共通点を挙げるとすると、常にリスクに備えたセキュリティー感覚を持っていたからじゃないかと思うんですよね。

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