──介護保険の後退は心配です。ただ、誰にも看取られない死を望む高齢者はいるのですか。

「(高齢者がバリアフリー住宅に共同で暮らす)グループリビングのCOCO湘南台(神奈川県藤沢市)を立ち上げた西條節子さんが語ったエピソードです。死が近くなった人に寄り添いながら『あなたの正直な気持ちを聞かせてほしい』と聞くと、『たまには一人にしてください』と答えたそうです。『死ぬときに一人にさせてはならない』というのは、送る側の思い込み。私はこれを『看取り立ち会いコンプレックス』と呼んでいます」

「高齢者が突然死することはめったにありません。介護保険につながれば主治医もつきますし、訪問看護ステーションが24時間緊急対応をしてくれます。訪問介護が定期的に入れば、死後、長時間経って発見される心配もありません。おひとりさまで不安なら、誰かに鍵を預けることも考えましょう」

──子どもは親を24時間看護・介護してほしいという思いから、施設入居を選びがちです。

「子どもが意思決定するからですね。『在宅ひとり死』のためには、本人の意思がまず大事。家族が本人の意思を尊重して、地域の看護・介護資源を利用し、在宅で看取る。そこに訪問リハビリテーションや訪問薬剤管理、訪問歯科診療、訪問口腔(こうくう)ケアなどの連携があれば、さらに理想的です」

「残念ながら地域格差や人材格差があるのは否めません。資源のある地域へ引っ越すのも一案でしょう。例えば、『家は病室、道路は廊下、病院はナースステーション』と町全体を病院にしようと医師会が取り組んでいる広島県尾道市、在宅ホスピスのパイオニア、山崎章郎医師が率いる『ケアタウン小平』のある東京都小平市、日本在宅ホスピス協会会長で小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニックの小笠原文雄医師がいる岐阜市など。実際に『先生のところで死なせてくれ』と来る患者さんもいるそうですよ」

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年6月19日号