「検察庁法で定年は検事総長が65歳、それ以外は63歳と決まっている。検察官は逮捕、起訴できる権限を有し、政治とは距離を保つのが不文律だ。安倍首相はモリカケ疑惑、桜を見る会疑惑、側近だった河井克行前法務相夫妻の疑惑追及が怖いので、旧知の黒川氏を検事総長の座につけ、守護神としていてほしいのだろう。だから検察庁法改正の審議を急いでいるのではないか?」

 検察庁法の改正が実現すると、黒川氏は最大、68歳まで定年を延長できるというのだ。現職のある検事もこう疑問を呈する。

「定年延長は世の中の流れではあります。しかし、黒川検事長の定年延長が批判を浴びている中で、コロナ感染拡大で不要不急は控えるように言われているにもかかわらず、なぜ、検察庁法改正案が今、なんだと正直、思います。黒川氏のためではないのかと疑問視する意見が検察庁の中でも、かなりあります」

 そんな中、注目されるのが広島地検と東京地検特捜部が捜査中の河井案里参院議員と夫で前法相の克行衆院議員の公職選挙法違反事件だ。多くのメディアが「立件視野」と最近、報じている。

 今年1月、河井夫妻の事務所や関係先に広島地検などが強制捜査をかけたが、安倍政権は同月31日には「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に、黒川検事長の定年を半年延長する閣議決定をした。

「検察庁法の改正は黒川氏の定年延長と次期検事総長ポストにお墨付きを与えるようなもの。政治に近づきゴマすった検察官が、政権によって定年延長、出世というとんでもない前例ができてしまう。これまで、検事総長が、後継者を指名して退任するのが不文律だった検察のシステムが壊される。検察庁法の審議が国会で行われている最中、河井前法相夫妻の事件を立件という報道が流れているのは、検察も黙っていないぞいうトップのメッセージだと思う。検察は一丸となって河井夫妻の立件で盛り上がり、世論形勢もされる。もし河井夫妻の疑惑を事件化できない場合、国民から疑問視されるだろう。検察と政治の暗闘がすでに始まっている」(検事長経験者の弁護士)

 河井前法相の捜査はどこまで進んでいるのか。捜査関係者はこう自信をみせる。

「河井夫妻からカネをもらったと認めている広島の県議や市議は10人以上いる。中には自白を録音録画、可視化した人もいる。捜査は着々と進んでいる。あとは誰をターゲットに立件するかを決めるだけだ。国会開会中の逮捕許諾請求もあり得る」

<#検察庁法改正案に抗議します>は今も数字を伸ばし、900万件を超え、トレンドランキング上位につけている。安倍政権と検察の暗闘から目が離せない。(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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