「こうした流れに注目したのは米国立衛生研究所(NIH)。1973年に免疫療法のプロトコール(標準治療計画)の国際登録を始めると、世界の研究者は競うように、自ら考案したがん免疫療法をNIHに登録。1500余りに達した新療法の大部分はBCGの生菌や菌体成分を使用したものだった」(同書)

 確かに、がんに対するBCG療法はブームでしたね。私もその可能性に期待しなかったわけではありません。

 免疫には、生まれつき備わっている「自然免疫」と病原体との戦いで身につける「獲得免疫」があります。「免疫力を高めよう」と言ったときの免疫は自然免疫の方で、ワクチンなどで得られる免疫は獲得免疫です。BCGは結核菌に対する獲得免疫をもたらすとともに、自然免疫も高めることができそうなのです。新型コロナウイルスに効果があるとすれば、その部分でしょう。

 しかし、がんへの試みははっきりした延命効果を得ることができずに、BCGはがん治療の舞台からほぼ消えました。でも、膀胱がんの術後治療として、BCGを注入することは標準的に行われています。

 私は、BCGはがんに対するより、新型コロナのようなウイルスに対する効果の方が期待できると思っています。

 いま日本国中の人たちが不安になっています。自分はBCGを接種しているという「お守り」を心の中に持つことは悪くはないのではないでしょうか。

週刊朝日  2020年5月8-15日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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