田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、IT革命に乗り遅れた我が国の状況を鑑み、“人生120年”時代の日本のあり方を考える。

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 1年ばかり前に、京都大の山中伸弥教授が私に、「ゲノム編集による再生医療によって、今後10年くらいでほとんどの病気が克服されるようになる」と語った。

「ほとんどの病気が克服される」ということは、人間の寿命が延びるということである。山中氏は、平均寿命が120歳ぐらいになるのではないか、と言われた。

 もちろん寿命が延びるというのは、ありがたいことである。これまで世界の医療は、何とかして難病を克服しようと懸命になってきた。

 かつては、がんが発見されれば、すなわち生命の危機とされてきたのだが、医療の発達によって克服されるケースもあり、抗がん剤などの普及で生存期間が延びている。

 ただ、問題も少なからず生じる。

 これまで、私たち日本人の人生設計は、約20年間学び、約40年間働き、約15年間年金生活をする、というものであった。

 だが、平均寿命が仮に大幅に延びた場合、人生設計を作り直さざるを得なくなる。

 たとえば、現在では65歳から年金が受給できるのだが、平均寿命が100歳を超えれば、現在の年金制度は破綻(はたん)する。少なくとも、年金受給年齢を75歳程度に引き上げる必要がある。となると、75歳までは働ける、ということにならざるを得ないのだが、現在の60歳定年制をどうすればよいのか。

 今、多くの企業で50代の従業員が大きな問題になっている。

 50代になって部長や課長などの役職に就いた従業員はともかく、役職に就けなかった50代はモチベーションに欠けて、しかも給料は高く、使いにくい。経営陣としては解雇したいのだが、終身雇用制でそれができない。どの企業でも大きな問題になっているのだが、75歳まで働けるとなると、一体どういうことになるのか。

 さらに、1989年には時価総額で世界のトップ50社の中に、日本企業が32社入っていた。1位はNTTであった。ところが、2018年には、世界のトップ50社の中に残っているのはトヨタ1社だけで、しかも35位であり、その他の企業はすべて落ちこぼれてしまったのである。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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