医学部入試の女性差別に抗議するデモ(c)朝日新聞社
医学部入試の女性差別に抗議するデモ(c)朝日新聞社
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医学科の志願者数・倍率の推移。河合塾データから作成 (週刊朝日2020年2月21日号より)
医学科の志願者数・倍率の推移。河合塾データから作成 (週刊朝日2020年2月21日号より)
国公立大医学科の志願状況 (週刊朝日2020年2月21日号より)
国公立大医学科の志願状況 (週刊朝日2020年2月21日号より)
私立大医学部の志願状況(公開している大学のみ) (週刊朝日2020年2月21日号より)
私立大医学部の志願状況(公開している大学のみ) (週刊朝日2020年2月21日号より)

 女性差別問題などがいまだ尾を引く医学部入試。医学部人気の過熱は一段落した模様だが、今年の志願動向はどうなっているのか。最新のデータを読み解いていこう。

【図表】医学科の志願者数・倍率などのデータはこちら

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「医学部の人気が下がってきています」
 と分析するのは河合塾教育情報部の岩瀬香織チーフだ。今年の国公立大医学科(前期)の志願者数は約1万4千人(6日時点)。昨年の1万6千人から減少しそうだ。私立大は公表しない大学も多いが、公表している大学だけでも、昨年比96%と減少している。

 これまで医学部人気はバブルの様相を呈していた。国公立大医学科の志願者は2007年に1万7千人だったのが、12年には2万人まで増加。私大のほうがその傾向は顕著で、志願者数は07年に6万7千人だったのが年々増加し続け、18年には11万人近くに達した。

 それに伴い、偏差値も上昇。例えば、東京慈恵会医科大は1985年の偏差値60(河合塾)から今年は70に、順天堂大も50が70になった。国公立大や私立最難関大の医学部は東大理一や理二より難しいと言われる。

 人気の背景にあったのは、医師の高い地位と安定した収入だ。08年のリーマンショックで新卒学生の就職が厳しくなると、優秀な生徒やその親の間で医師を目指す動きが強まった。また、文部科学省は、地方において医師不足が深刻化していることから、08年から医学部の定員を増加させてきた。その結果、多くの優秀な生徒が医学部を目指すことにつながった。

 しかし、“バブル”状態であれば、それはいつかはじける。グラフをもう一度よくみてみよう。国公立大は15年ごろから右肩下がり。それでも私大は志願者数も倍率も高め安定の状態だったが、昨年は減少。今年の数字は傾向の変化を決定づけるとみられている。

 一つの契機となったと思われるのが、18年に発覚した入試差別問題だ。女性や多浪生などが小論文や面接で減点されていたことが判明し、医学部のイメージは悪化。また、勤務医の過酷な労働状況も「働き方改革」を掲げる社会で問題視されている。さらに今後は人口減少などから、医師が余り、高収入が保証されなくなるという指摘もあり、若年層で医学部進学への魅力が薄れてきているのだろう。

「いま理系の優秀な生徒は人工知能(AI)やデータサイエンスなどを学ぶ情報系を目指しています。成長分野での活躍が期待できるからです。大きな流れにはなっていませんが、今後、海外大学への進学も増えるのでは」(岩瀬チーフ)

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東大理三は「安全志向」の影響が少なかった