版元の駒草出版の担当編集者が言う。

「数年前、遠い親戚の死後の一切を一人で執り行った女性が、その体験を綴ったブログをネットで見つけました。さまざまな書き込みもなされていて、『死』のあれこれを知りたいニーズがあると思い、企画しました」

 ちなみに「3万円以下」というのは、東京23区内で想定される最低負担額だ。棺(約3万円)や骨壺(約1万円)、火葬費用(約6万円、自治体ごとに異なる)の計約10万円は基本的にかかる。国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していれば支給される「葬祭費」(23区は7万円)をそこから引けば、約3万円になる。

 少子高齢化や先祖供養の意識の変化などで、都市部を中心に仏事の簡素・低価格化は進む一方だが、埼玉県で真言宗のお寺の住職を務める高橋泰源さん(58)は、こうした風潮に警鐘を鳴らす。

「0葬はネーミングがよくないと思います。葬儀がゼロととられかねず、『0埋葬』が正しい言い方ではないでしょうか。今の時代、低価格は大事ですが、あまりにそれに走りすぎて、故人を送る『心』が置き去りにされてしまっては本末転倒になります」

 実家のお寺を継ぐまでは金融データ会社に勤めていた。その時代に仕事でも役立つとFP資格を取得。現在は、金融機関向けに宗教法人との付き合い方を教えている。消費者向けには仏事も絡めたマネー知識の啓蒙に努めており、いわば「FP住職」だ。昨年には『必勝!! 終活塾』(双葉社)も上梓(じょうし)している。

 高橋住職が「心」を重視するのは、やりすぎて後悔する遺族の事例を見てきたからだ。

「例えば、70歳の父親が突然死した家庭がありました。母親が質素な葬儀を望んだため、戒名もつけずに近親者のみで見送ったそうです。ところが、『あまりに質素だったので父は寂しがっているのではないか』といった思いが子どもたちに強まり、その時点で私のところに相談に来ました。今からでも遅くないので母親を説得したらどうですか、とアドバイスしたんです」

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