延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
村上春樹さんと川上未映子さんの「冬のみみずく朗読会」 (c)新潮社
村上春樹さんと川上未映子さんの「冬のみみずく朗読会」 (c)新潮社

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は村上春樹さんと川上未映子さんが行った朗読会について。

【写真】村上春樹さんと川上未映子さんの「冬のみみずく朗読会」

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 昔の日本人にとって、読書とは音読するものだったと国文学研究資料館館長で東大名誉教授のロバート キャンベルさんが言った。だとしたら、乗合バスや電車はさぞかし賑やかだったことだろう。以来、僕は朝の電車に乗ると、(誰にも気づかれないようにぼそぼそ小声で)小説を読むことにしている。伊集院静さんが若き夏目漱石と正岡子規の交流を連載中の「ミチクサ先生」(日本経済新聞)は、愛媛・松山育ちの子規の口調、「参ったぞなもし」「こりゃ、たまげた」をひそかに音読するのが楽しい。

 とっておきの朗読会があった。

 村上春樹さんと川上未映子さんの「冬のみみずく朗読会」だ。阪神・淡路大震災の年、春樹さんは神戸と芦屋でチャリティ朗読会を開いたが、当時19歳で書店に勤めていた川上さんは聴衆として参加し、サインを求めて列に並んだという。その後、作家になった川上さんが春樹さんに創作の姿勢や方法をインタビューした「みみずくは黄昏に飛びたつ─川上未映子訊く 村上春樹語る─」が文庫化されたが、それを記念した朗読会だった。春樹さんと川上さんは朗読者と聴衆の関係から25年越しで互いに朗読者として登壇したというわけだ。

「こんばんは(間を置いて)村上春樹です」と、冒頭は「村上RADIO」でお馴染みのDJ風に始まって、一気に場が和んだ。

 まず小学生のイノセントな日々を描いた自作「あこがれ」を川上さんが朗読し、春樹さんは「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」を読んだ。

「未映子さんとだから、関西弁でもいいんだけど、関西漫才みたいになってしまうから」と軽いジョークで聴衆を笑わせた春樹さんは、その日のためにとっておきのサプライズを用意してくれていた。それは数週間前に書いたばかりだという新作「品川猿の告白」の初披露だった。春樹さんはときどき水で喉を潤しながら、品川猿の言葉の場面で声色を変えた。場面は群馬のひなびた温泉宿。「失礼します」と風呂場に入ってきた猿が、語り手の背中をごしごし洗ってくれる。そして、“I○NY”(○=ハートマーク)のTシャツを着た猿は身の上話を始める。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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