里親を募集すべく、姉妹を箱に入れてテニスコートへ行き、仲間のおじさん、おばさんに声をかけた。

の赤ちゃん、飼うてくれへん? ほら、二匹とも、めちゃ器量よしやろ」

「かわいい」と、おばさんたちから声があがり、五日後に三毛の里親が決まった。

 ちょうどそのころ、東京へ行った。亡くなった藤原のいおりんや白川のトオちゃんと卓を囲んで、

「うちにいま、白い仔猫がおるねん」

「それがどうした」

「ある秋の晩、おじいさんとおばあさんが将棋を指してると、床下からミャー、ミャーと──」わたしは顛末(てんまつ)を語り、「な、麻雀の神様は性善なる篤実な人間にツキを授けるよな」

「ツキは授けない。大敗の罰は与えよう」

「ね、今日は勝たして」

「無理だな。その邪(よこしま)な願いは聞けない」

 そして戦いははじまり、朝までつづいた。善きひとの願いは叶(かな)えられ、わたしは仔猫の一年分のミルク代をもらって新幹線に乗った。

 仔猫は一月ほど家にいた。トイレは二日で憶(おぼ)え、マキの真似(まね)をして、ちょこんと肩に乗ったりする。そのかわいい盛りに、テニスのおじさんにもらわれていった。名前は、ふく。いまも元気で、おじさんはスマホの待ち受け画面にしている。

週刊朝日  2019年12月13日号

著者プロフィールを見る
黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

黒川博行の記事一覧はこちら