「31日の1日で事態がひっくり返ったのは、官邸の指示を文科省がそのままのみ込んだということ。藤原次官は、以前から官邸との距離が非常に近く、官邸の意向には従順に従う人物だ。高校生ではなく、政権へのダメージを最優先に考えた指示に従った結果、延期という判断になったに違いない」

 土壇場の延期の最大の被害者は、来年度の受験生だ。高校2年生といえば、そろそろ18歳選挙権に手が届く年齢。安倍政権の支持層には、10~30代の若年層が多いことでも知られる。

「だからこそ、高校生の不満を募らせることで、これ以上、若者の支持を失いたくないという判断もあったはず」

 英語の民間試験の導入は、5年後の24年度を目指す方向で、試験の仕組みを抜本的に見直すとされている。同年度は、学習指導要領改訂後、初の大学入試が実施される年でもある。前川氏は続ける。

「ここまで準備を整えてきたにもかかわらず、5年先というのは、異例の先延ばし。安倍政権が続いている間に、この問題を再燃させないための策としての5年なのだろう。この先延ばしには、非常に政治的なにおいを感じざるを得ない」

 そもそも大学入試改革は、第2次安倍政権初期に、官邸主導で組まれた教育再生実行会議が提言した看板政策として、13年から議論がスタートした。当初から、センター試験を廃止し、アメリカの大学進学適性試験(SAT)に倣った仕組みにすべきという声が自民党内に強くあったという。

「入試改革の源流となる議論は、政治家発のものも含めてあちこちにあって、錯綜していました。教育再生実行会議は、そうした議論を無理やりひとまとめにしようとした結果、非常にわけのわからないまとめ方をした。どう考えても無理がある方向に議論が進んでいったのです」

 前川氏が最も問題視するのが、センター試験の枠内に、英語民間試験の点数を組み込んだことだ。

「教育再生実行会議では、下村博文元文科相のもと、とにかくセンター試験に代わる新しい到達度テストを行うという課題が設定されてしまった。ですがそもそも、センター試験はそんなに悪いものじゃなかったんじゃないか」

 下村氏、萩生田文科相は安倍首相の出身派閥に属し、2人とも側近中の側近だ。

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