高御座と御帳台は正殿松の間に据えられ、令和の即位礼正殿の儀では参列者が宮殿の豊明殿、春秋の間、石橋の間、および中庭を取り囲む廊下に座る。ここに設置された数多くの大小モニターで儀式の様子をつぶさに見られる。平成のときより格段に詳細、鮮明に両陛下の姿に接することができるという。(「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典委員会」配布資料から作成) ※週刊朝日2019年11月1日号より
天皇の即位を広く国内外に披露するための「即位の礼」が10月22日から31日まで行われる。中心となる儀式は22日に皇居・宮殿松の間で行われる「即位礼正殿(そくいれいせいでん)の儀(ぎ)」。歴史を振り返りつつ「みるみるわかる」即位の礼の解説をお届けする。
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即位の礼の儀式の数々に関して、皇室の儀式に詳しい京都産業大学名誉教授の所功さんに聞いた。
「即位礼正殿の儀は単に天皇陛下だけの儀式ではありません。日本の国力や在り方、ビジョンなどを示す一大イベントでもあるのです」
新天皇が即位したことを宣言し、国の内外に披露するもので、即位の礼の中心となる儀式である。天皇の即位に際していわゆる三種の神器を受け継ぐ儀式の原型は古墳時代からあったとみられるが、不明なことが少なくない。
「即位の儀式が整ったのは、7世紀後半の天武天皇のころと考えられています。遣唐使が唐の皇帝の豪華な即位儀礼を見て帰り、それをモデルにしたとみられています。そのため、儀式の設備や装飾品、服装など、ほぼ唐の在り方に倣っています」
平成2(1990)年の平成の即位礼正殿の儀の際、平成の天皇が高御座(たかみくら)で、お言葉を述べられると、海部俊樹首相(当時)が国民を代表して祝意を示し、万歳三唱をする姿が印象的であった。この万歳は天武天皇のころから現在まで続く儀式の一つである。
万歳に関して、正殿の前庭に「萬歳」の文字を織り込んだ萬歳旛が掲げられる。「萬歳」の文字は、前回、海部首相が揮毫(きごう)したのをふまえて、今回は安倍首相が揮毫した文字が刺繍(ししゅう)される。
祝いのときなどに「萬歳」と書いた旗を立てたり振ったりすることは、古代の中国から伝えられ、それが毎年元日の朝賀式や代替わりの即位式に用いられてきた。一斉に万歳三唱するようになったのは、近代に入ってからである。
このように天皇の即位式は、唐風の形式が幕末の孝明天皇まで続いた。
それが明治元(1868)年の即位式で一変している。明治維新の前提となる理念は「王政復古」であった。そこで即位式も岩倉具視が日本風に戻すことを提案。その意をくんだ神祇官副知事の亀井茲監(これみ)らが古典を考証し、天皇の装束は唐風の礼服を廃して和風の黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)を用い、前庭に飾り立てる旗類も唐風を廃して神式の榊(さかき)に飾り布を垂らす「幣旗(へいき)」というシンプルなものに改めている。