前半、突進をはかるリーチ(中央)。左は具智元(C)朝日新聞社
前半、突進をはかるリーチ(中央)。左は具智元(C)朝日新聞社

 ラグビー・ワールドカップ(W杯)で史上初の8強入り、決勝トーナメント進出という快挙を成し遂げた日本代表。20日の準々決勝・南アフリカ戦で3―26と敗れたが、健闘した。世界的大躍進を支えたヘッドコーチ(HC)や選手たちの列伝や秘話を紹介する。

 ウィングの松島幸太朗や福岡堅樹らがトライを重ねて快進撃したチームを率いるのは、ニュージーランド(NZ)出身のジェイミー・ジョセフHC(49)。選手時代はNZ代表として1995年W杯で準優勝した経験を持つ。同年からは日本のサニックス(現・宗像サニックスブルース)でプレーし、99年W杯には日本代表として出場。選手としての実績は申し分なく、日本を熟知した人物としても知られる。

 ただ、2016年秋の就任当時は、15年W杯で南アフリカを破るなどW杯過去最多の3勝を挙げた前任のエディ・ジョーンズHC(現イングランド代表HC)と比較されて苦しんだ。

 ジョーンズ前HCがボールを保持し続けるポゼッションラグビーを標榜したのに対し、ジョセフHCはキックを多用するキッキングラグビーを志向。ジョーンズ前HCは猛練習に加えて言動や服装にも厳しい規律を課す管理型だったが、ジョセフHCは複数の選手にリーダーを任せて自主性を引き出す方法を取った。

 就任当初はなかなか結果に結びつかず、周囲からは批判の声が上がった。選手たちも、そのやり方に半信半疑だった。しかし、気づかぬうちに確実に“ジェイミー流”はチームに浸透していた。今夏のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)ではフィジー、トンガ、米国に全勝するなどW杯での躍進を予感させた。

「エディが上から下の指導法だとすれば、ジェイミーは斜め上から。時間はかかったが、兄貴分的な存在は、選手に責任感を芽生えさせるうえではよかった」(日本ラグビー協会関係者)

 両指揮官の下でプレーしたスクラムハーフの田中史朗はこう話したことがある。

「エディの時はやらされている感が強かったが、いまは自分たちで考えながらやっている。コーチに頼るだけでなく、いまのチームは自分たちで進化してきた」

 ジョセフHCは自らの考えを押しつけるのではなく、日本人の気質も踏まえ、選手の自主性を促し続けてきた。それだけにこの躍進は一過性のものではなく、価値がある。

次のページ
多国籍チームをまとめた リーチ・マイケルの極意