最後は調心。これはそう簡単ではありません。沢庵宗彭(たくあんそうほう)和尚が『不動智神妙録』のなかで兵法の心として説いた「不動智」が、目指すところです。

 これは心が四方八方、右左と自由に動きながら、一つのもの、一つのことに決してとらわれないことをいいます。つまり、総(すべ)てにのびのびとひろがった心です。そのとき、心はどこにも置かれず、どこにもある状態になります。これはだれでもできるわけではありません。私自身は、毎日の晩酌でほろ酔い気分になり、心の一切を解放したときに、その境地に近づきます(笑)。

 気功的人間になるには、調身、調息、調心を実践した上で、もうひとつ大事なことがあります。それは虚空を意識することです。

 以前書きましたが(6月28日号)、老いて死ぬ、その先には、虚空の存在が浮かび上がってきます。人は虚空から来て虚空に帰るのだと私は考えています。気功の本質は、その虚空と交流することなのです。それができる人こそ気功的人間です。

週刊朝日  2019年10月18日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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