例えば東京の旧築地市場。都は五輪開催前の20年2月末までに計155棟すべてを解体する。その半数近い72棟で石綿が使われており、除去が必要な面積は計8万平方メートル超。過去最大級とされる除去工事だが、すでに飛散が発覚している。

 都は3月、解体現場1カ所から都のマニュアルで定めた目安を超えるアスベストが検出されたと発表した。飛散を防ぐシートが適切に設置されていなかったという。都は作業員らに健康被害はないとするが、100%安全と言い切れるのだろうか。

 現在の規制では、除去時に作業場内や外部への石綿の漏えいを測定する義務すらなく、飛散状況を知ることができない。いつの間にか石綿を吸い込み、数十年後にがんになったとしても、原因がわからず泣き寝入りするしかないのだ。「静かな時限爆弾」は、見えないかたちで、みんなのすぐそばにある。

 国は経済界などに配慮し、これまで対応が遅れ続けてきた。いま行われている規制強化の議論でも、同じ過ちが繰り返されようとしている。人の命をどう守るのか。国の姿勢が改めて問われる。(ジャーナリスト・井部正之)

週刊朝日  2019年9月27日号より抜粋