両省の検討会で委員を務めるNPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう訴える。

「日本の石綿対策は管理、調査、分析、除去、測定のすべてに問題がある。英国など先進的な対策を講じる国を手本に、規制を大幅に強化する必要があります」

 両省の改正方針では、改修・解体で事前調査をする場合の資格要件や調査手順を定めることや、一定規模の改修・解体で調査結果を届け出ることなどが示されている。抜本改正にはほど遠く、こうした規制では防げないケースもあると外山氏は指摘する。

「建物の所有者に石綿の調査や管理を義務づけるべきです。除去業者のライセンス制度をつくり、石綿の工事はすべて専門業者に任せる仕組みも必要。除去作業時の測定や完了時の検査、罰則の強化なども求められます」

 国会でも石綿問題が取り上げられた長野県飯田市の明星保育園では残った石綿の除去について、第三者による監視や完了検査の必要性が保護者から指摘されたが、実現していない。

 発がん物質の石綿を飛散させても、現在の安衛法や大防法の罰則は、「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」など。そもそも大防法では、意図的に違反するなど悪質でない限り摘発できない。安衛法違反では労基署が書類送検することもあるが、年間数件ほどで、起訴されることはまずない。飛散の危険性に罰則が見合っていないのだ。

 厳罰化と取り締まりの強化が求められるが、両省とも及び腰。英米豪など石綿飛散の罰則が厳しい国とは対照的だ。

 保育園の保護者の男性はこう語る。

「吹き付け石綿があるのを知っててわざと工事をしても、『知らなかった』と言えば指導を受けるだけで罰則はない。保護者としては絶対許せません。知らなかったではすまされないように厳しい罰則が必要です」

 国の規制が甘く改正方針も十分ではない。自治体の対応も遅れている現状では、前述の保育園のようなケースはこれからもなくならない。

 東京五輪や大阪・関西万博を前に、石綿を含む建物はいまも解体されている。

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