■海外金融機関の口座

 50代の男性は以前、米国での海外研修に赴任した経験があり、その際に現地の銀行に口座を開設していた。帰国時に解約することも考えたが、金利が良かったため、そのままにしておいた。

 金融機関に勤務している友人と海外口座の話題になり、「このまま放置していて相続になったりしたら大変だから、早めに手続きしたほうがいい」と助言され、口座閉鎖の手続きを行うことにした。

 米国弁護士資格を持つ弁護士に依頼し、預金を特定できる情報など詳細を綴った英文の手紙を送ったが、なかなか返信がない。催促を重ね、何度も書面でのやり取りを交わし、預金が戻ってきたときには最初に連絡してから半年以上が過ぎていた。それでも、先の友人には「米国で相続手続きをするよりはずっとマシ」と言われたという。

 相続の手続きは国によって違う。日本では、遺言書や相続人間の話し合いに基づいて進められていくのが一般的だ。しかし、例えば米国では「プロベート(検認)」という手続きを踏む必要がある。被相続人の財産はいったんエステート(遺産財団)に預けられ、弁護士など裁判所の任命を受けた「人格代表者」がその管理を行う。人格代表者は遺言書を調べ、相続人をリストアップし、債務の返済や税金の申告・納税を行った後、残った財産を相続人などに分割する。

「言葉の問題もありますが、何より、プロベートは時間がかかります。財産の種類やそれが属する州などによっても異なりますが、概ね1~3年を要するケースが多いようです。米国の弁護士などはタイムチャージ方式ですから、時間がかかればそれだけコストも膨らみます。場合によっては数百万円に上ることもあるようです」(前出の小谷さん)

 遺族にとっては手痛い“予想外の大出費”となる。だからこそ小谷さんは、「残高がそれほどでもない場合、海外口座は忘れずに解約しておくべきです」と言う。

 国内の預貯金口座も、生前と死後では手続きの煩雑さが違う。

「元気なうちに使わない口座から解約して、ある程度、口座数を絞っておきましょう」

 小谷さんが勧めるのは“口座の断捨離”だ。

「中には、『残高が0円なら大丈夫だろう』と言う方がいらっしゃいますが、0円でも口座は残っているので、相続の際には所定の手続きが必要になります」

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週刊朝日  2019年9月13日号