主役キャラクターの黒田門松(手前)と川島徳太郎を描いたサイン入りパネル
主役キャラクターの黒田門松(手前)と川島徳太郎を描いたサイン入りパネル
第23回手塚治虫文化賞の贈呈式であいさつする山田参助さん=撮影・多田敏男
第23回手塚治虫文化賞の贈呈式であいさつする山田参助さん=撮影・多田敏男
『あれよ星屑』(c)山田参助/KADOKAWA
『あれよ星屑』(c)山田参助/KADOKAWA
手塚治虫文化賞のロゴマーク
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 終戦から74年。夏になると太平洋戦争に改めて思いをはせる人も多いだろう。戦争を扱った小説や映画などがたくさんあるなかで、今回紹介したいのが昨年完結した長編漫画、山田参助さんの『あれよ星屑(ほしくず)』(KADOKAWA、全7巻)だ。

【写真】手塚治虫文化賞の贈呈式であいさつする山田参助さん

 戦争を巡る闇や人間の業(ごう)を鮮烈に描き、一般読者はもちろん専門家からも高く評価された。山田さんは長編は初めてだが、作品の完成度は抜群。今年の第23回手塚治虫文化賞新生賞や、第48回日本漫画家協会賞大賞にも選ばれた。作者本人に、作品への思いや描く原点などを語ってもらった。

 まずは、内容を紹介しよう。かつて中国大陸で戦った元陸軍軍曹の川島徳太郎は、終戦直後の東京で、部下だった黒田門松に再会する。川島と黒田の2人の主役を通じて、戦争体験をひきずる川島の心の「闇」や、焼け野原でもたくましく生きる人たちの「光」を描いている。筆致は力強くリアルだが、時には軽妙さも併せ持つ。

 手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の選考委員の漫画家、里中満智子さんは、こう評価する。

「『勝てなかった男たち』の『落とし前の美学』がハードに描かれていて圧倒される。どうしようもない怒りを持て余す男たちのやるせなさが胸を打つ。戦争、戦後を舞台にしてはいるが、武士の社会やヤクザ組織のドラマと通じるものがある」

 同じく選考委員で女優の杏さんは、「戦後の空気感、心情が読んでいて痛いほど」。大きなパワーを秘めた作品のようだ。

 山田さんは1972年大阪生まれで、94年に月刊誌「さぶ」(サン出版)でデビュー。風俗誌や実話誌を中心に長年描き、2013年から初長編となる『あれよ星屑』を「月刊コミックビーム」(KADOKAWA)で連載していた。一般誌ではなじみが少ないかもしれないが、知る人ぞ知る実力者だ。手塚治虫文化賞新生賞の受賞について、こう喜ぶ。

「もともと自分の中にあるスタンダードなことを素直に出しているという思いと、世間的にマニアックなことをやっているという思いが、どちらもあったんです。それがどのくらい読者に伝わるのか分からない気持ちもあったので、賞をいただいて勇気づけられました」

 子どものころから児童文学に描かれた民話や戦争にまつわる物語に親しみ、思春期以降には、1950~60年代の日本映画を好むようになった。

「文芸や日本映画に触れるようになって、子供の頃に読んでいた“戦争体験”を振り返る児童文学の記憶がよみがえり、『子供向きの読み物で読んで知っていることがアダルトになるとこうなるんだ!』と、点と点がつながりました。そうした体験を重ねて、現代の視点で終戦直後を振り返るマンガを描いて、自分で読んでみたいと思うように。東日本大震災の時に物資不足が戦後直後のように感じられて、震災以降は描きたいという思いがさらに強くなりました」

 同業の作家に編集者を紹介されたことがきっかけで、「月刊コミックビーム」での連載が決まった。タイトルはテーマや世界観をイメージしやすい言葉を選んだ。ある詩のフレーズを、無意識に取り込んでいたことに後で気づいたという。

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タイトルにつながったのは、あの『きけわだつみのこえ』