週刊朝日に連載された小説『マジカルグランマ』(朝日新聞出版)が注目を集めている。著者柚木麻子さんは制限に囲まれた育児中の暮らしを70代の主人公の人生に重ね、閉塞(へいそく)感を打ち破る発想で描いた。次の作品は次世代の女性に響かせたい、と構想を広げている。
第161回直木賞の候補作品になった『マジカルグランマ』。候補の著者6人が全員女性ということが話題になっただけに、
「同じような作品を読んできただろう作家も多く、そういう候補の中に入れてよかったです」
淡々とそう語る。それもそのはずで柚木作品が候補になるのは5回目。17日の選考会当日も、普段どおりに過ごしたという。
「もちろん力を抜いたわけではありませんが、『マジカルグランマ』は一番時間をかけられなかった作品です」
約2年前に出産したころ、連続不審死事件をヒントにした『BUTTER』が直木賞候補になり、自作の刊行も重なるなどスケジュールが立て込んだ。産休も取らずに働きつづけるなか、40の保育園に落ちる“事件”にも遭ったという。
週刊朝日編集部から連載小説の執筆依頼を受けたのは、そんな時期だ。「読者の年齢層にあわせ、シニア層に響くヒロインを」と。
それまでは取材をして執筆する、という姿勢を貫いてきた。しかし小さい子を育てていると外出するのもままならない。バギーを押していては街の段差も越えられないことが多い。
体力の衰えが進むシニアと、いつしか同じ目線になった気がした。そのうえで、老人とはこういうもの、という決めつけに反する物語を着想したという。
『マジカルグランマ』のあらすじはこうだ。女優だった主人公正子は結婚後、引退して主婦になる。75歳を目前に再デビューし、CMにも出て「日本のおばあちゃんの顔」になる。
しかし夫の突然死によって実は仮面夫婦であったことが露呈し、せっかくの人気を失う。それに夫には2千万円の借金があり、古くなった自宅は売ろうにも解体に1千万円かかることが判明した。