死刑判決を受けた保見光成(ほみこうせい)被告
死刑判決を受けた保見光成(ほみこうせい)被告
保見被告の愛犬「オリーブ」
保見被告の愛犬「オリーブ」

 山口県周南市で2013年7月、同じ集落に住む男女5人を殺害したとして殺人などの罪に問われ、1、2審で死刑判決を受けた無職、保見光成(ほみこうせい)被告(69)の上告審判決で、最高裁は11日、被告の上告を棄却した。死刑が確定する。

【写真】保見被告の愛犬「オリーブ」

 判決の前日の午後、記者は広島拘置所で保見被告と向き合っていた。これまで、何度も面会を重ねてきた保見被告。

 この日は挨拶をかわす暇もなく、いきなり「時間がないんじゃ」と自身の事件の記録を取り出し「講義」をはじめた。

「犯人の靴とされているが、自分の持ち物とは色が違う」

「この靴、警察で見せられた時は、新品のような感じだった。だが、裁判所に出てきた靴の写真は泥だらけ。警察と検察に証拠をねつ造された」

 捲し立てるようにこう話した。判決前日に記者にそのような話を慌ててしたところで、最高裁には届かない。

「弁護士に話した方がいいですよ。判決前日ですから」と声をかけると、こう答えた

「判決が明日? 心境も何も待っているしかないわ。心境もクソもない。とにかく、時間がない」

 保見被告は死刑判決への「不安」などない素振だった。しかし、一方的に話す様子はこれまでにない慌てぶりで、話すことで不安をかき消そうとしていたのではないかと感じた。

 事件は凄惨なものだった。保見被告に襲われた家は、血の海。そこに火をつけて、焼き払われてしまい

「目を覆いたくなるような現場だった」と当時の捜査員は言う。

 長く関東で仕事をしていた、保見被告。両親の住む山口県にUターンしたのは、事件の15年ほど前のことだった。

 しかし、長く故郷を離れていたことで、人里離れた集落の人とはうまくいかず対立。それを決定的にしたのが事件から5年ほど前の正月のこと。酒の席で集落の住民と口論になり、保見被告は胸のあたりを刃物で刺されたのだ。

「あれは2003年正月の4日のことだ。Sという集落の男が話していると激高して、牛刀を2本持ち出し『殺してやる』と1本は喉元にあて、もう1本で俺の胸を刺した。こちらも危ないと反撃して殴ってやった」

 保見被告はこう振り返る。現場には警察も駆け付け、大騒ぎになった。しかし、Sさんは罰金刑だったという。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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保見被告が詠んだ句とは?