「警察から小さな集落だから、コトを大きくしちゃいかんと説得された。納得はしなかったが、仕方なかった」とも言う。

 そこからますます対立が深まり、ついには「現代の八つ墓村事件」と呼ばれるほどの大事件を起こしてしまった。

 保見被告は逮捕直後、犯行を認めていたとされる。だが、その後、否認に転じた。事件について聞くとこう主張した。

「最初、認めたのは混乱の中で『お前がやった』『犯人だろが』と刑事に言われ、パニックになって話しただけ。冷静になってからは否認していた」

「事件の日、また自分の陰口を集落の連中が言っていると聞いた。そこで家に乗り込んで、棒で足や腰は叩いた。それだけだ。殺人、放火? そんなもんやってない。警察、検察のねつ造だ」

 事件当時、話題になったのが、保見被告が書いた詩だ。

<つけびして 煙り喜ぶ 田舎者  かつお>

 この詩を自宅前に貼り出していた。「犯行声明か」とも思われたこの詩。

「自分の噂話をして、集落の連中が喜んでいるという意味だ。ああやって貼っておけば、何だろうと見に来て、噂話や悪口について、教えてくれることもあるのでは思った。相田みつをが好きで、ああいう詩というか短歌、狂歌はよく書いていたんだ」

 保見被告は面会に行くとその場で、いろいろな詩や川柳などを即興で詠んだ。

<妄想 追い込み 抑え込み 検察時代 なつかしむ 弁護士>

 これは自身の弁護士が検察OBで、意見が合わない時に詠んだものだ。

<ねつ造で 死刑に乾杯 警察検察 いつかこの手で懲らしめる>

<検察は ウソでかためて 突き落とす>

 捜査への批判を詩や川柳で語っていた保見被告。弱みを見られたくないという思いからか、常に強気な姿勢だった。

 だが、長く飼っていた愛犬ゴールデンレトリバー「オリーブ」の話になると目を潤ませ、言葉少なく語った。

「自分が警察のでっち上げで捕まった。そのせいか、オリーブも保護されたが、逮捕直後に死んでしまった。捕まらなければ、生きていた、かわいそうに…」

 昨日の面会で、制限時間がオーバーするほど話そうとした保見被告に「詩などで、今の思いが浮かんだりすることはありますか」と聞くと、「今は、それどころじゃない」と焦ったように話した。

 今、拘置所の独房で「死刑確定」をどう思い浮かべているのだろうか?(今西憲之)

※週刊朝日オンライン限定記事

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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