寂:汚い子だったから、おできに薬をつけて、みんな遊んでくれなかったけど、それが良かった。一人遊びをするためにいろいろ工夫して、想像力ができたの。小説家になった一番の原因はそこだと思います。石一つ拾ったら、その石で遊ぶことができたの。それが今、一から全部思い出される。

ま:これまで私にそんな話してくれたことなかった。「新潮」の連載のために書き始めてから「4~5歳のときの思い出をこんなに覚えてるんだ」と思ったわけですよね。かつて多分、その時代のことを書いたことないんですよ。だからそういう意味では「残る」ものになると思います。

寂:幼稚園に入る前だからね。ある夜のことを書こうと思って思い出すと、「こんなことも、あんなこともあった」ってその辺りのこと全部思い出される。このごろ、子どものころの世界が一番身の回りにある。書くまではそんなこといちいち思い出してなかったんですよ。

ま:私がすごいと思うのは、スランプが一度もないこと。私はこの本を書くのでさえ3年かかったのに、先生はいまだに何を書こうか悩むことはあっても、書けない時期がないじゃないですか。書き続けられる力が衰えず、それだけずっと生み出しているのはすごい。

寂:天才とかよく売れてる人は、「スランプで書けない」とか言うじゃない。あれ言ってみたいんだけどね(笑)。

(構成/本誌・緒方 麦)

週刊朝日  2019年7月5日号より抜粋